こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
今日は、
・放射線のニュースなどのニュースなどを見ると、「シーベルト」という言葉をよく聞く。
・実は、「シーベルト」という単位には色々な意味があると聞いたが、その違いを知りたい。
こう言った疑問に答えます。
○本記事の内容
- とりあえず知っておきたい5つの「シーベルト」
- 実効線量
- 預託実効線量
- 等価線量
- 周辺線量当量
- 個人線量当量
- 防護量と実用量
- 用語の使い方
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
とりあえず知っておきたい5つの「シーベルト」
以下の5つの指標の単位は全て「シーベルト」です。「シーベルト」は、こちらの記事で解説したように、放射線の被ばくによる影響の程度を表す単位であり、これら5つの指標も全てそれに該当するのですが、対象としている内容が少しずつ異なっています。
・実効線量
・預託実効線量
・等価線量
・周辺線量当量
・個人線量当量
それぞれの指標について、順番に解説していきます。
実効線量
実効線量とは、被ばくによる全身への影響の程度を示す指標です。
具体的には、以下のように、各臓器が受ける影響を足し合わせることで全身の影響を求めます。
実効線量=Σ(各臓器が受ける影響の程度を示す量 × 組織荷重係数)
この式中の「組織荷重係数」とは、放射線に対する各臓器の感受性を表す指標で、例えば、
・骨髄、結腸、肺、胃など:0.12
・生殖腺:0.08
・膀胱、食道、肝臓など:0.04
・骨表面、脳、皮膚など:0.01
・残りの組織の合計:0.12
などとなっています。
(出典)ICRP2007年勧告
つまり、骨表面、脳、皮膚などに比べて、骨髄、結腸、肺、胃などは放射線の影響を受けやすい、ということですね。
預託実効線量
預託実効線量とは、内部被ばくによる影響の程度を示す指標です。
その算出方法は、上記の実効線量と同じで、被ばくした放射線の種類及び被ばくした臓器の種類を考慮して算出されますが、それらを全て加味した「預託実効線量係数」を用いて算出します。
詳細についてはこちらの記事で解説しています。
等価線量
等価線量とは、放射線被ばくによって各臓器が受ける影響の程度を示す指標です。
実効線量が「全身への影響の程度」を示す指標であるのに対して、等価線量は各臓器に着目した指標です。
実は、上記の「実効線量」の説明の中で登場する、「各臓器が受ける影響の程度を示す量」がまさに「等価線量」のことです。
つまり、この式は
実効線量=Σ(等価線量 × 組織荷重係数)
とも書き換えられる、ということですね。
ちなみに、この等価線量は、
等価線量=Σ(吸収線量 × 放射線荷重係数)
で求められます。
放射線荷重係数とは、放射線の種類ごとに決められた、人体への影響の程度を示す係数で、例えば、
・γ線、X線、β線:1
・陽子線:2
・α線:20
・中性子線:2.5-21
などとなっています。
(出典)ICRP2007年勧告
つまり、α線はγ線やβ線よりも人体に与える影響が20倍大きい、と評価されている、ということです。
周辺線量当量
周辺線量当量は、サーベイメータや、モニタリングポストなどで周囲の環境の放射線量等を測定した時の結果として表される量です。
正式には、ICRU球と呼ばれる、人体の組織を模した直径30cmの球に放射線を照射した際の、球の表面から深さ1cmの箇所における線量当量のことですが、まずは、測定機器を使って得られる空間の放射線量等の値、と認識すれば良いかと思います。
個人線量当量
個人線量当量は、個人線量計などで個人への被ばく量を測定した時の結果として表される量です。
これも、人体のある地点の深さ1cmにおける線量当量です。
通常は人体に身につけて(通常は前面)測定するので、仮に全方向からの均等な被ばくを評価する場合には、自己遮蔽効果(通常、背中方向からの被ばくに関して、人体が放射線を遮蔽する)が作用するため、全方向からの放射線を測定する周辺線量当量に比べると値は小さくなります。
これについても、まずは、個人線量計で測定した際に得られる被ばく線量、と認識しておけば良いかと思います。
防護量と実用量
「シーベルト」で表される上記の指標のうち、「実効線量」「預託実効線量」「等価線量」は人体への影響を管理するための量であり、「防護量」と呼ばれます。
ただし、これらの防護量は、各臓器が受ける被ばく量から推測するため、直接測定することは非常に困難です。
そこで、これらの防護量を推計するために必要となるのが、実際に測定できる「周辺線量当量」や「個人線量当量」で、これらは「実用量」と呼ばれます。
ここで重要な点としては、必ず実用量が、防護量よりも同等程度か、それよりも大きな値となるように設定されている、ということです。
具体的には、まず、周辺線量当量については、安全側の観点から、サーベイメータなどで測定する値が実効線量を下回らないように設定されています。
個人線量当量については、人体の正面からの被ばくのみを評価する場合には、周辺線量当量と同等程度の評価となりますが、均等方向の被ばくを評価する場合には、前述した背中の部分による遮蔽効果はあるものの、 個人線量当量も、実効線量に近い値を示すことになります。
用語の使い方
以上のことから、例として上に挙げた指標については、同じ「シーベルト」という単位を使っていますが、それぞれ別の意味を持っていることがお分かりいただけたかと思います。
ですから、これらは同じ「シーベルト」という単位を持っていても、例えば足したりすることはできません。
つまり、周辺線量当量の「シーベルト」と、個人線量当量の「シーベルト」は同じ「シーベルト」という名前の単位ですが、例えば、足したりすることはできない、ということです。
だから、「シーベルト」という言葉を聞いた時、上の指標のうち、どのことを言っているのか考える必要があります。
ただし、ニュースや新聞などには、その都度説明はなく、単に「シーベルト」という言葉が使われます。
例えば、
「本日のモニタリングポストの空間線量率は1時間あたり0.3マイクロシーベルトで・・・」と言った場合、まず間違いなく「周辺線量当量」のことを指しています。
また、
「一般の公衆への被ばくを年間1ミリシーベルト以下に抑えるために・・・」と言った場合には、かなりの確率で「実効線量」のことを指しているでしょう。
一体どの指標のことを意味しているのか、文脈などから推測する必要があるということですね。
まとめ
「シーベルト」で表される単位のうち、とりあえず知っておきたい5つの指標について説明しました。
これらのうち、「実効線量」「預託実効線量」「等価線量」は人体への影響を管理するための量で、「防護量」と呼ばれますが、直接測定することは困難です。
そのため、サーベイメータで測定する「周辺線量当量」や、個人線量当量で測定する「個人線量当量」という「実用量」により、実際には放射線の被ばく量を管理します。
そして、安全側の観点から必ず「実用量」>「防護量」となるように設定されています。
「シーベルト」という言葉を聞いた時、どれを意味しているのか、その都度考えるようにして、正しく理解するようにしましょう。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
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今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
コメント
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