(緊急時等の放射線防護について解説)被ばく状況の分類について(その3)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

こちらの記事では、被ばく状況の分類について解説し、また、こちらの記事においては、被ばくの種類及び計画被ばく状況における放射線防護の考え方について解説しました。

今日は、その続きとして、

・緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線防護の考え方について知りたい。

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. (緊急時等の放射線防護について解説)被ばく状況の分類について(その3)
  2. 公衆被ばく
    • 参考レベル
  3. 職業被ばく
    • 線量限度
  4. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(緊急時等の放射線防護について解説)被ばく状況の分類について(その3)

緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況においては、公衆被ばくと、職業被ばくとで、放射線防護の考え方が違ってきますので、以下に、公衆被ばく、職業被ばくに分けて説明したいと思います。

なお、被ばく状況(計画、緊急時、現存)について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

また、被ばくの種類(職業、医療、公衆)について、知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

公衆被ばく

計画被ばく状況においては、将来のがんの発生のリスクを抑える、という観点で放射線防護の対策が講じられますが、緊急時被ばく状況等における公衆被ばくについては、まずは、健康への重大な悪影響を防ぐことが優先されます。

この際、公衆被ばくに対する放射線防護において、重要となるのが、「参考レベル」という指標です。

参考レベル

原子力発電所の事故等が発生した際には、その汚染状況等に応じて、被ばく線量が多い人と、少ない人の集団ができます(図1)。

この場合、前述したとおり、公衆の健康への重大な悪影響を防ぐため、まずは被ばく線量が高い人への対策(例:避難)を優先して、被ばく線量を低減させます。

この際、被ばく線量を低減させるための目安となる値を設定する必要がありますが、これを「参考レベル」と言います。

対策の結果、ある程度の人が参考レベルを下回る被ばく線量になったら(図2)、合理的に達成できる範囲で、再度新たな参考レベルを設定します(図3)。

そして、今度は新たに設定した参考レベルを上回る被ばく線量の人たちに優先的に対策を講じ、更なる被ばく線量の低減を目指します(図4)。

これを繰り返すことで、最適化の原則に従い、合理的に達成できる範囲で、継続して被ばく線量を低減させる取組を続けていきます。


↑図1


↑図2


↑図3


↑図4

ただし、参考レベルとして目安とする被ばく線量は低ければそれで良い、という訳ではなく、社会における他の便益や、過度な被ばく線量の低減対策によるリスクなども考慮して、設定されるものである、という点に留意が必要です。

なお、ICRP(国際放射線防護委員会)は、参考レベルについて、

・緊急時被ばく状況:年間20~100mSvの間
・現存被ばく状況:年間1~20mSvの下方部分

において設定することを勧告しています。

職業被ばく

緊急時被ばく状況等における職業被ばくについては、基本的に、計画被ばく状況と同様の、「線量限度」という考え方が適用されます。

線量限度については、こちらの記事も参照してください。

線量限度


まず、緊急時被ばく状況においては、50mSvという被ばく線量が目安にはなっていますが、人命救助など、その活動内容に応じて、適切な情報提供や、健康診断などを行った上で、さらに、大きな線量限度が適用されることとされています。

また、現存被ばく状況のうち、事故など後の復旧時における職業被ばくについては、計画被ばく状況と同様、

・5年間で100mSvかつどの1年間も50mSv(実効線量)

の勧告が適用されます。

これらは、職業被ばくについては、計画被ばく状況と同様、個人線量計などを使って、被ばく線量を管理したり、定期的な健康診断により、作業員などの健康を管理を行うため、線量限度の考え方を導入するものであり、特に緊急時被ばく状況については、その状況に応じて、(当然限度はありますが)数値を変えていきます。

まとめ

緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線防護の考え方について解説しました。

放射線防護の考え方は、公衆被ばくと職業被ばくとでは異なっています。

公衆被ばくについては、放射線防護の最適化の原則を達成するために「参考レベル」という指標が導入されます。

職業被ばくについては、事故など後の復旧時における職業被ばくについては、計画被ばく状況と同様の「線量限度」という指標が導入されますが、その数値は、特に緊急時被ばく状況においては、作業内容などによって変わってきます。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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