(時系列で解説)福島第一原子力発電所の事故による環境汚染について(その2)

除染、特定廃棄物の処理

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今日は、前回の記事の続きとして、

・福島第一原子力発電所の事故後に、空間線量率が低減している理由は?
・空間線量率の低減率が減少する理由は?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. (時系列で解説)福島第一原子力発電所の事故による環境汚染について(その2)
  2. 福島第一原子力発電所の事故後に、空間線量率が低減している理由
    • 原子核の壊変
    • 除染
    • 風雨などの影響
  3. 空間線量率の低減率が減少している理由
    • 物理学的半減期
    • 風雨の影響を受けにくくなる
  4. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(時系列で解説)福島第一原子力発電所の事故による環境汚染について(その2)

冒頭でも述べたように、福島第一原子力発電所の事故後、放射性物質が環境中に放出されましたが、航空機モニタリングの結果、時間の経過とともに、全体としては空間線量率は低減していること、ただ、その低減率自体も減少していることが分かりました。

その理由を以下で解説していきたいと思います。

福島第一原子力発電所の事故後に、空間線量率が低減している理由

他にも理由は考えられますが、以下に、主な3つの理由を挙げてみました。

原子核の壊変


こちらの記事でも解説していますが、放射性物質は放射線を出して、放射線を出さない、より安定な物質(安定同位体)へと変化していきます。

つまり、そのスピードは放射性物質ごとに異なっていますが、放射性物質が新たに追加されなければ、特に何もしなくても、放射線を出す放射性物質の数は時間の経過とともに減少していく、ということです。

除染

写真出典:除染アーカイブサイト

除染については、こちらの記事で解説していますが、その場所にある放射性物質を取り除いたり、放射性物質の周囲を他の物質で覆ったり、遮ったりして、放射線が周囲に及ぼす影響を低減させることです。

当然、放射性物質が拡散した東日本の全域を全て除染した訳ではないので、全体から見ると、その効果は局所的になりますが、除染を実施した箇所においては空間線量率の低減に寄与します。

風雨などの影響

以下でも述べますが、放射性物質は、特に地上に沈着して間もない頃は、風雨などの影響を受けやすい、つまり風や雨によって移動しやすい状態にある種類もあります。

つまり、陸上に沈着した放射性物質も、風や雨に乗って、別の場所、特に河川、池、湖、さらには海へと移動していったことが考えられます。

水域は特に水の遮へい効果が働き、地上に届く放射線の量が減少し、結果として空間線量率の低減に繋がったものと考えられます。

空間線量率の低減率が減少している理由

それでは、空間線量率の低減率はなぜ、時間の経過とともに減少するのでしょうか。他にもあるかと思いますが、以下に主な2つの理由を挙げてみました。

物理学的半減期

前述したように、放射性物質は、放射線を出し、より安定な物質(放射性同位体に対して、「安定同位体」と言います)へと変化していきます。

そして、その減少スピードは、それぞれの放射性物質ごとに決まっていて、通常、その時点で存在する数の半分になるまでの時間として表現されます。

例として、以下の図を見ていただければ分かりますが、最初16個ある放射性物質が8個になるまでの時間を「T」とすると、8個ある放射性物質が4個になるまでの時間も「T」ですし、4個が2個になるまでの時間も「T」、2個が1個になるまでの時間も「T」、といった具合です。

これを見れば分かるように、この例では、最初は「T」の時間で減少した放射性物質は8個だったのに、その次は、同じ「T」という時間内に減少する放射性物質の数は4個、その次は2個、その次は1個、という風に、時間の経過とともに、一定期間内に減少する放射性物質の数も減ってきます。

これが、時間が経過するとともに、空間線量率の低減率も減少する理由の一つです。

ちなみに、この時間Tのことを半減期、また、その他の半減期(例:生物学的半減期、実効半減期)と区別するために、「物理学的半減期」と言います。

なお、福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質の物理学的半減期等については、こちらの記事をご覧ください。

風雨の影響を受けにくくなる


先ほど、風雨の影響もあって空間線量率が低減した、と述べましたが、その効果は時間の経過とともに薄れていきます。

その理由は、一つには放射性物質が、風雨による影響を受けにくい場所に移動するからです。

当初は森林の林冠や道路表面など、風雨の影響を比較的受けやすい場所にあった放射性物質も、やがて地表面に降下し、徐々にではありますが、地表面から地中へと移動したり、物と物との隙間に入り込むなど、風雨の影響を受けにくい場所へと物理的に移動していきます。

もう一つは、化学的な変化です。

原子力発電所の事故の後、長期間に渡って影響を及ぼし続ける放射性セシウムは、当初は水に溶けやすい状態(溶存態)として存在している割合が高いですが、その後、徐々に土壌中の負電荷と中程度の強さで吸着された状態(交換態)、更に土壌中の負電荷に加えて、土壌鉱物中に構造的に強く吸着された状態(固定態)の割合が高くなることが知られています(参考文献例はこちら)。

つまり、最初は水によって移動しやすい状態だった放射性セシウムも、一旦土壌鉱物に取り込まれると、(その土壌ごと移動しない限りは)水域へと移動しにくくなる、ということです。

このようにして、時間の経過とともに、風雨の影響による空間線量率の低減効果は見られにくくなる、という訳です。

なお、原子力発電所の事故の後に特に留意する必要がある放射性物質の種類については、こちらの記事をご覧ください。

まとめ

今日は、前回の続きとして、福島第一原子力発電所の事故後に、空間線量率が低減している理由や、空間線量率の低減率が減少している理由について解説しました。

まず、空間線量率が低減している理由として、以下の3つの要因について説明しました。

・原子核の壊変
・除染
・風雨などの影響

次に、空間線量率の低減率が減少している理由については、以下の2つの要因について説明しました。

・物理学的半減期
・風雨の影響を受けにくくなる

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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