放射線被ばくによる健康影響について(その4)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今日は、前回までの続きとして、確率的影響に関して、

・1mSvや100mSvって、どの程度の被ばく線量なの?
・日常生活における放射線被ばくとがんのリスクとの関係は?
・放射線被ばくと遺伝的影響との関係は?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 放射線被ばくによる健康影響について(その4)
  2. 日常生活における様々な放射線被ばく
  3. 日常生活における放射線被ばくとがんのリスクとの関係
  4. 放射線被ばくと遺伝的影響との関係
  5. 放射線被ばくによる健康影響について考える時に考慮すべきこと
  6. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

放射線被ばくによる健康影響について(その4)

前回までの記事:(放射線被ばくによる健康影響について(その1))(放射線被ばくによる健康影響について(その2))(放射線被ばくによる健康影響について(その3))では、

・確定的影響について、その概要、発生メカニズム、組織や臓器ごとのしきい値の違い
・確率的影響について、その概要、発生メカニズム、被ばく線量とがんのリスクとの関係

について解説してきました。

本記事では、前回の続きとして、放射線被ばくとがんに関するリスクとの考え方について知るため、私たちの日常生活における放射線被ばくについて理解し、最後に、残った遺伝的影響について解説したいと思います。

日常生活における様々な放射線被ばく

これまでに登場した、1mSvや100mSvという値がどの程度の被ばく線量なのかを知るために、放射線医学研究所が公表している放射線被ばくの早見表を見てみましょう。

左側が人工放射線、右側が自然放射線です。

歯科撮影で被ばくする線量が最大0.01mSv、胸のX線撮影は0.06mSv程度です。

飛行機に乗ると、地上にいる時よりも宇宙線の影響をより強く受けますが、東京とニューヨークとの間の1往復で被ばくする線量は0.2mSv程度です。

ICRPが勧告している、計画被ばく状況における一般公衆の線量限度は、実効線量で年間1mSv(医療被ばくを除く)です。

なお、被ばく状況の分類(計画、緊急時、現存)については、こちらの記事を、被ばくの種類(職業、医療、公衆)については、こちらの記事をご参照ください。

日本人が宇宙線や食物などの自然放射線から受ける平均的な被ばく量は年間およそ2.1mSvとなっています。

日本人や世界の人々の1年間の平均的な被ばく量などについては、こちらの記事をご覧ください。

胃のX線検診は胸のX線撮影よりも被ばく量が大きく、1回で約3mSv程度の被ばくになり、X線によるCT検査では、1回の診断で、およそ、5から30mSv程度の被ばくをします。

また、世界の中には、土壌に含まれる天然の放射性物質であるラジウムやウランなどの量が多いことが原因で、被ばく線量が他の場所と比べて大きい地域があり、例えば、インドの南西部にあるケララ地方はその代表的な例の一つです。

その被ばく量は、年間数mSvから数十mSvになりますが、この地方でも、がんの相対リスクの増加は確認されていません。

また、ICRPは、計画被ばく状況における職業被ばくの線量限度を、例えば、実効線量で、5年間で100mSv、かつどの1年間も50mSvを超えないように、と勧告しています。

詳しくはこちらの記事も参照してください。

心臓カテーテル治療の際に、体の透視のために用いるX線により、皮膚に数Gy程度の被ばくがあります。

さらに、放射線を使ったがん治療を行う場合には、がん細胞を滅失させることを目的とするため、被ばく線量は高くなり、10Gyを超える放射線を被ばくすることもあります。

これらは計画被ばく状況における被ばくで、被ばく線量を管理した上での被ばくになりますが、もし、1Svを超えるような被ばく線量を、意図せずに、特に一度に浴びてしまうと、こちらの記事で説明したような、確定的影響が現れる可能性が高くなってきます。

こうしたデータを見ると、原子力発電所の事故などの緊急時や、医療被ばくなどの計画された被ばくを除けば、私たちの日常生活の中で、100mSvという線量を被ばくする可能性はかなり低いことが分かります。

日常生活における放射線被ばくとがんのリスクとの関係

では、私たちが日常生活の中で受ける被ばく線量でも、発がんリスクには寄与するのでしょうか。

また、寄与する場合、どの程度のリスクなのでしょうか。

以下に示した図はアメリカにおけるデータですが、人のがんの原因となる習慣などの割合を分析したものです。

たばこや、成人期における食事や肥満が、それぞれ発がんの原因の約30%を占め、また、運動不足も約5%と評価されているのに対して、放射線や紫外線による影響は約2%とされています。

つまり、私たちの普段の生活の中では、発がんの防止、という観点からは、放射線への対策よりも、禁煙や、食事管理、適切な運動の方が、より効果的である、と言えます。

人種差や食習慣などを考慮したとしても、日本人についても、同様のことが言えるのではないかと思います。

放射線被ばくと遺伝的影響との関係

最後に、こちらの記事で示した、確率的影響のうち、残った、放射線被ばくと遺伝的影響との関係について説明したいと思います。

放射線被ばくにより、遺伝的障害が起こるメカニズムとしては、例えば、DNAが持っている遺伝的情報に変化が起こったり、染色体そのものの形態に異常が生じ、被ばくした人の子孫に、何らかの影響が及ぶ、という可能性が考えられます。

そして、ICRPは、遺伝的障害が起こるリスクを、1Gyの被ばくで、0.2%上昇する、としています。

上に示した図でも分かるように、1Gyという被ばく線量は、医療被ばくを除いた被ばく線量としては非常に高い線量であり、医療被ばくの場合でも、局所的に計画して被ばくすることから、よほど特殊な状況でない限り、全身に被ばくすることのない線量です。

また、がんによる死亡のリスクが100mSvで0.5%、としていましたので、仮に、ガンマ線による全身への被ばくを仮定すると、1Gyでは、おおよそ5%、ということになり、これと比較しても、さらに低い値であることが分かるかと思います。

実際に、広島や長崎の、原爆被爆者二世を対象として、出生時障害、遺伝子の突然変異、染色体異常、がん発生率、がんやその他の疾患による死亡率などに関して、追跡調査が行われていますが、被爆者ではない人たちの二世と比較しても、その差は認められていません。

こうした調査などから、放射線被ばくによる遺伝的な影響のリスクは、当初考えられていたよりも高くないことが分かってきています。

放射線被ばくによる健康影響について考える時に考慮すべきこと


ここまで、放射線被ばくによる健康影響に関して、確定的影響と確率的影響について解説してきました。

確定的影響については、人体の臓器や組織ごとに放射線への感受性の違いを反映した、それぞれに異なるしきい値があるため、その影響について、各臓器や組織ごとにより詳細に見ていくことが重要になります。

一方で、確率的影響については、主に、全体的な発がんのリスクという観点で議論されることが多いかと思いますので、まずは、上に示した早見表なども活用して放射線の被ばく線量について大まかなスケール感を知り、それに応じた、過剰でも過小でもない放射線防護のための対策を検討することが重要かと思います。

まとめ

今回は、特に確率的影響について、1mSvや100mSvがどの程度の被ばく線量であるかを知るために、日常生活における様々な被ばく線量の種類やその大きさをまとめてみました。

また、日常生活における、発がんに寄与する様々な要因の割合を示し、平常時においては、発がんに及ぼす放射線の影響は、喫煙などの他の因子に紛れてしまって特定することが難しいことを説明しました。

遺伝的障害のリスクについては、発がんのリスクよりもさらに小さいこと、広島や長崎の被爆者の追跡調査でも、遺伝的影響は確認されていないことなどを紹介しました。

最後に、放射線被ばくによる健康影響について考えるときは、その影響の種類(確定的影響、確率的影響)、被ばく線量などの情報から、その影響の程度に関するスケール感を知り、過剰でも過小でもない対策を講じることが重要、という点について言及しました。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版


英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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