こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
今日は、
・放射線の被ばくに関して、その被ばく状況の種類があると聞いたが、どのような種類があるのか知りたい。
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (3つあります)被ばく状況の分類について(その1)
- 計画被ばく状況
- 緊急時被ばく状況
- 現存被ばく状況
- なぜ被ばく状況について考えることが重要か
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(3つあります)被ばく状況の分類について(その1)
ICRP(International Commission on Radiological Protection: 国際放射線防護委員会)などの文書では以下の3つの被ばく状況が定義されています。
・計画被ばく状況
・緊急時被ばく状況
・現存被ばく状況
ICRPの勧告において、被ばく状況の考え方が導入されたのは、2007年の主勧告(Publication 103)(日本アイソトープ協会による和訳版)になりますが、それぞれの被ばく状況について、以下に説明していきます。
なお、ICRPについては、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事をご参照ください。
計画被ばく状況
計画被ばく状況とは、簡単に言うと、その名の通り、計画的に導入した線源(放射性物質)からの被ばくを受けている状況のことです。
例えば、
・原子力発電所を新しく建設することによる生じる被ばく
・研究室で放射性物質を使って研究することによる被ばく
・医療施設で放射線を使って診断や治療をすることによる被ばく
などがこれに相当します。
緊急時被ばく状況
緊急時被ばく状況とは、これもその名の通り、緊急事態における放射線による被ばくのことです。
例えば、
・原子力発電所の事故の直後において、外部に放出された放射性物質が原因となる被ばく
・不適切に廃棄された機器に含まれる放射性物質が誤って周辺に拡散されたことによる、その事象発生直後の被ばく
などがこれに相当します。
いずれにせよ、事故等の発生直後で、まだ放射性物質による汚染の状況が完全に把握されていないような状況です。
現存被ばく状況
現存被ばく状況は少し分かりにくいかもしれませんが、緊急時以外で、かつ、意図的に導入したものではないような被ばくのことを指します(計画被ばく状況でも、緊急時被ばく状況でもない状況)。
例えば、
・原子力発電所の事故後の除染作業における被ばく
・自然放射線からの被ばく
などがこれに相当します。
なぜ被ばく状況について考えることが重要か
ところで、その時々の被ばくの状況を知ることがなぜ重要なのでしょうか。
重要なポイントの一つは、放射線防護の考え方が状況によって変わることかと思います。
確定的影響と呼ばれるような、急性障害が現れるようなレベルの被ばくは、いついかなる状況でも避けなければなりませんが、もっと被ばく量が低い、確率的影響が現れるレベルの被ばく線量になると、緊急時、平常時、そして現存する被ばくに対する放射線防護のその考え方や優先事項が複雑に変わってきます。
確定的影響や確率的影響については、こちらの記事もご参照ください。
これは他の化学物質による健康影響などでは見られない、放射線防護独自の考え方かもしれません。
この記事を読んでいらっしゃる方の中には、放射線防護の基準が沢山あってややこしい、と思われている方もいるかもしれません(1mSv?20mSv?50mSv?)。
これには、被ばく状況の違いが関わっている場合もあります(もちろんこれ以外の要素が関わっている場合もあります)。
その複雑さを理解するうえでも、この被ばく状況の違いを知っておくことは重要なことかと思います。
まとめ
被ばく状況には以下の3つの状況があります。
・計画被ばく状況
・緊急時被ばく状況
・現存被ばく状況
これらの違いを知ることで、状況によって放射線防護の考え方が変わることを知るベースになります。
各被ばく状況下での放射線防護の違いなどについては、こちらの記事やこちらの記事もご参照ください。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
コメント
[…] You can read the same article in Japanese here. […]
[…] 前回の記事では、被ばく状況の分類について解説しました。 […]
[…] 以前の記事では、被ばく状況の分類について解説し、また、この記事においては、被ばくの種類及び計画被ばく状況における放射線防護の考え方について解説しました。 […]
[…] これは計画被ばく状況における例ですが、この正当化の原則はその他の緊急時被ばく状況や現存被ばく状況においても適用されます(被ばく状況の種類については、こちらの記事をご覧ください)。 […]