こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
現在、国が進めている、除染で発生した土の減容や再生利用等に対する、IAEAのレビューに関して、こちらの記事で、国際原子力機関(IAEA)が進めているレビューの背景等、こちらの記事で、IAEAによる全般的な評価について説明しました。
そして、こちらの記事で、より詳細な説明、特に「第Ⅲ章:規制的側面」について解説しました。
今回は、その続きとして、最終報告書の「第Ⅳ章:除去土壌の減容及び再生利用」について説明したいと思います。
つまり、今回は、
・ 除去土壌の再生利用等に関するIAEAの最終報告書に書かれた「除去土壌の減容及び再生利用」って何?
・ IAEA最終報告書は「除去土壌の減容及び再生利用」についてどんな評価をしたの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その4)
- IAEA最終報告書に書かれた「除去土壌の減容及び再生利用」とは
- IAEA最終報告書「第Ⅳ章:除去土壌の減容及び再生利用」に書かれた評価
- セクションⅣ.1 除去土壌の減容及び再生利用に関する全般的な取組
- セクションⅣ.2 除去土壌及び廃棄物の中間貯蔵
- セクションⅣ.3 減容技術
- セクションⅣ.4 再生利用の安全評価
- セクションⅣ.5 農地盛土実証事業
- セクションⅣ.6 道路盛土実証事業
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その4)
それでは早速、最終報告書の「第4章:除去土壌の減容及び再生利用」に書かれた内容について見ていきましょう。
IAEA最終報告書に書かれた「除去土壌の減容及び再生利用」とは
ここで対象としている「除去土壌の減容及び再生利用」は、ここまで説明してきた、福島第一原子力発電所の事故後に行われてきたオフサイトの環境回復活動に伴って発生した除去土壌の減容及び再生利用のことです。
除去土壌の「減容」というのが少しイメージしづらいかもしれませんが、こちらの記事でも解説した、分級や焼成といった技術により、放射性セシウムを濃縮し、最終処分される土壌の量を減らす手法のことです。
IAEA最終報告書「第Ⅳ章:除去土壌の減容及び再生利用」に書かれた評価
以下で、各評価項目について解説していきますが、説明のための利便性の観点から、各評価項目についてアルファベット(a, b, c…)を付しています(実際の報告書には書かれていません)。
セクションⅣ.1 除去土壌の減容及び再生利用に関する全般的な取組
まず、事業全般が、ベースになる技術開発戦略等に沿って進捗していると評価されています。
加えて、こちらの記事で触れた、最終報告書の全般的な評価の「f.」 にも少し書かれていますが、重要なのは、この除去土壌の減容と再生利用に関する取組は、単に被災地の復興に寄与している、というだけでなく、その持続可能なプロセスにも価値が置かれている、という点かと思います。
ここで登場するIAEA安全基準(GSG-18)とは、一般安全指針18:’Application of the Concept of Clearance'(クリアランスの概念の適用)(こちらのウェブサイトを参照ください)のことです。
その安全指針の付属文書(Appendix)として、’SCREENING LEVELS FOR RECYCLING OR DISPOSAL IN LANDFILLS OF MATERIAL AND WASTE IN A POST-EMERGENCY SITUATION’(緊急時の後の状況における、物質や廃棄物の再生利用や埋立地における処分に関するスクリーニングレベル)というパートがあって、この中で、「スクリーニングレベル」という概念が登場します。
計画被ばく状況においては、クリアランスや個別クリアランスという、放射能濃度が低い廃棄物について、放射性物質としての規制体系から除外する概念がありますが、このGSG-18では、福島第一原子力発電所の事故後のような、現存被ばく状況下においては、別の概念が導入されています。
これが「スクリーニングレベル」という考え方で、除去土壌の再生利用については、8,000Bq/kg(以下)の放射能濃度がこれに相当します。
ここでは、環境省が行ってきた取組が、このGSG-18に記載された、スクリーニングレベルの考え方に合致している、と評価されているわけです。
ここでは、再生利用される資材(用途に応じて処理される除去土壌)について、上の「b.」 で登場した、関連するスクリーニングレベル(8,000Bq/kg以下で、その用途等に応じた放射能濃度)を超えていないことを確認する必要性について述べられています。
福島県内で発生した除去土壌の放射能濃度については、仮置場(こちらの記事を参照ください)から中間貯蔵施設(こちらの記事をご参照ください)に輸送される前に測定され、8,000Bq/kg以下のものと、8,000Bq/kgを超えるものとに分けて保管されています。
ここでは、例えば、再生利用のために中間貯蔵施設から搬出される前に、再度その放射能濃度を測定し、結果や条件を記録しておくべき、という指摘なのだと思います。
こちらの記事でも解説しましたが、福島第一原子力発電所の事故で環境中に放出された放射性核種のうち、その放出量や物理的半減期なども考慮して、今後は放射性セシウム(特に放射性セシウム137)に着目していくことが重要とされています。
環境省では、除去土壌中の放射性物質濃度についても測定を行い、放射性ストロンチウムやプルトニウムの濃度が事故前と同程度であることを確認しており(こちらのウェブサイト(中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用方策検討ワーキンググループ(第4回)資料)をご参照ください)、再生利用事業の実施に当たっても、放射性セシウムに着目していくこととしています。
ここでは、そうした科学的根拠を国民に説明し続けていくことが重要とされています。
セクションⅣ.2 除去土壌及び廃棄物の中間貯蔵
中間貯蔵施設については、前述したこちらの記事、また、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事をご参照いただければと思います。
この中間貯蔵施設は様々な経緯、特に施設が設置されている大熊町や双葉町の人々の大きな決断があって建設されたわけですが、この施設への一時的な除去土壌等の搬入については理にかなっているとされています。
この中間貯蔵施設を建設して、最終処分は別の場所で行う、という手法については、色々な意見があるかとは思いますが、ここでは一定の評価がなされています。
また、専門家チームは第1回会合で、中間貯蔵施設も現地で実際に調査していますが、除去土壌はそこで適切に管理されている、と評価しています。
セクションⅣ.3 減容技術
こちらの記事でも解説しましたが、現在、除去土壌の減容技術(≒放射性物質の濃縮技術)の開発・評価が進められており、その内、分級処理、熱処理、飛灰洗浄技術の有効性が確認されたことに言及しています。
飛灰洗浄技術については、前述した記事に記載していませんが、土壌には強く吸着する放射性セシウムが、飛灰に吸着している場合には水には溶出しやすい性質を利用して、飛灰を洗浄し、放射性セシウムを分離・再吸着・安定化させる技術です。
一方で、環境省が設置している専門家の会合においては、例えば、化学処理については大規模化などに課題があるとされています(詳細については、こちらウェブサイトに掲載されたワークンググループなどのうち、「中間貯蔵施設における除去土壌等の減容化技術等検討ワーキンググループ」の資料をご覧ください)。
減容技術の選択にあたっては、様々な要素が考慮されることになります。
処理効果や、処理能力(例:大規模化の可能性)だけでなく、二次廃棄物の発生量、コスト、二酸化炭素の発生量なども考慮されるべきかもしれません。
また、再生利用のケースごとに適用される技術が変わってくる可能性もあります。
こうしたことを総合的に考慮して、技術を選択するための検討が行われるべき、とされています。
セクションⅣ.4 再生利用の安全評価
追加被ばく実効線量年間1mSvというのが、この再生利用において、そこで作業する人や周辺に住んでいる人々に対する線量基準(上限値のようなもの)として考えられています。
これは、こちらの記事の「g.」の助言のパートでも解説しましたが、この追加被ばく実効線量年間1mSvという値が適切に設定されている、と評価されています。
再生利用に関する全般的な安全評価は非常に保守的に(安全側に立った視点で)行われており、これも、こちらの記事の「j.」の助言のパートで紹介しましたが、8,000Bq/kg以下の再生土壌を使用することにより、線量基準(追加被ばく実効線量年間1mSv)を十分達成することが可能である、と評価されています。
現在環境省が実施しているのは、全般的な安全評価であり、どの再生利用の現場においても適用可能な手法により行われています。
その分、保守的に(安全側に立った視点で)行われており、被ばく線量としては過大に評価されることになります。
ここでは、再生利用事業の実施場所ごとの安全評価を行うことで、過度な放射線防護を必要としない最適化された対策の裏付けとなることや、例えば地形や土地利用形態など、その場所固有の事情に応じた安全評価を行うことで、住民などが感じる懸念に対応できる可能性を示しています。
上の「d.」のポイントでも触れしたが、福島第一原子力発電所の事故に伴って環境中に放出された放射性核種については、こちらの記事で解説したとおり、その影響のうち、物理学的半減期、放出量などを考慮すると、留意されなければならないのは放射性セシウム(特に放射性セシウム137)とされています。
ただ、環境省は、放出量が微量とされるストロンチウム90やプルトニウム238などの分析も行い、それが事故前と同等レベルであることを確認しており、それが国民の安心の観点から有用、と評価されています。
こちらの記事の「l.」の助言のパートでも解説しましたが、いずれ、放射能の低減により、放射線学的な管理が不要になる時期が来ることになりますが、その時期の見極めや確認方法などを含めた長期的な安全評価を行うことの重要性が改めて指摘されているのだと思います。
上の「l.」で述べた、放射線防護の観点からの、特別な管理の期間を終了するために必要な事項については、今すぐに、というわけではないが、ステークホルダーとも相談しつつ、将来的に策定することができるとされています。
再生利用事業については、その実施場所を(構造物の安全確保等の観点から)管理する公的機関等の協力が不可欠になります。
そうした機関に関連する関係省庁等との協力のもと、放射線防護上、特別な管理が必要となる期間を終了するために必要な事項等を明確にすべき、という趣旨だと考えられます。
セクションⅣ.5 農地盛土実証事業
福島県飯舘村で行われている実証事業については、こちらの記事で解説しましたが、この事業では、改良した除去土壌を農地の盛土として利用し、周囲の空間線量率の変化や、収穫された作物中の放射能濃度のモニタリングなどを行っています。
ここでは、それが安全に実施されていること、その有用性、また継続的な実施に関する期待が述べられています。
こちらの記事でも解説しましたが、中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(技術開発戦略)の成果の取りまとめが2025年3月までに行われ、2025年度以降に本格的な再生利用事業が実施されていく予定になっています。
そのために必要なデータや経験等を得るため、この農地盛土実証事業や、次のセクションで紹介されている道路盛土実証事業が行われてきましたが、ここでは、こうした実績により、本格的な制度の構築に必要な要素が得られている、と評価されています。
上述の「o.」をより詳しく記載したような内容になっていますが、再生利用に関する制度の主要なものが、こちらの記事のセクションⅢ.4でも解説した、省令及び技術ガイドラインになります。
実証事業を通じて、この省令及びガイドラインの策定に必要な科学的知見は十分に得られている、と評価されています。
放射性セシウムは、細かい土壌粒子に強く吸着される性質があることが知られており、長期間、土壌の表層部分にその多くが残留していることが分かっています。
再生利用実証事業現場からの浸出水中の放射性セシウム濃度は継続して検出限界値以下で推移しており、このことから、除去土壌中の放射性セシウムは水中にほとんど溶出しない、ということに言及されているものと考えられます。
セクションⅣ.6 道路盛土実証事業
道路盛土実証事業についても、こちらの記事で簡単に解説しました。
見学会などで現地に行かれるとわかりますが、まだ実証事業段階なので実際の道路と比較すると当然その規模は小さく、今後はより大規模な道路での使用が想定されます。
ここでは、その大規模事業の実施に必要なデータの蓄積などを行うため、本実証事業の継続が望まれる旨が記載されています。
上の「p.」のポイントと同じ記述内容になっています。
この実証事業においても、道路盛土からの浸出水中の放射性セシウム濃度の測定は行われ、検出下限値以下であることが確認されており、上の「q.」と同じ記載内容になっています。
まとめ
今回は、除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書に関して、「第Ⅳ章:除去土壌の減容及び再生利用」に書かれた結論の内容について解説しました。
年間追加被ばく実効線量1mSvという目標設定の適切性や、GSG-18に記載されたスクリーニングレベルとの整合性にとどまらず、個別の実証事業についてもかなり詳細に言及されているのが印象的です。
全体的にはポジティブな評価がされていますが、「第Ⅲ章:規制的側面」と同様、ここでも、長期的な安全評価が課題としてとりあげられています。
既にその検討を開始しているとのことですが、引き続き検討の内容を深化させていく必要があります。
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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