(まずは基本的事項について解説)除染とは

除染、特定廃棄物の処理

写真出典:除染アーカイブサイト

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今回は、除染に関する初めての記事なので、

・そもそも除染とは何か?
・除染の目的は?
・具体的な手法に関する考え方は?

こういった疑問に答えたいと思います。

○本記事の内容

  1. (まずは基本的事項について解説)除染とは
  2. 除染の具体的な手法
    • 取り除く
    • 遮る
    • 遠ざける
  3. 除染とは
  4. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(まずは基本的事項について解説)除染とは

まずは、除染作業の目的から考えてみましょう。

「除染」という言葉からは、「汚染を取り除く」、つまり、汚れた部屋を掃除するように、汚染された場所を綺麗にする、というイメージを持つかもしれません。

後で説明するように、それも重要な目的(手段)の一つですが、放射性物質による汚染を考えた場合、最も重要な目的は、人々の「被ばく線量(特に外部被ばく線量)を低減させること」です。

この目的を達成するために、どのような手法が取ることができるのか、以下に説明してみました。

除染の具体的な手法

除染のより詳細な手法については、必要に応じて別途説明したいと思いますが、まず、人々への外部被ばく線量を低減させるための基本的な考え方を今回は説明したいと思います。

取り除く


これは、放射性物質を、その影響を受けている人の近くから「取り除く」ことです。

前述したような、「除染」という言葉からイメージするのが正にこうした作業かと思います。

福島第一原子力発電所の事故後の環境汚染への対応としては、

・住宅の屋根や外壁のふき取り、庭の表土除去
・農地や公園の表土の削り取り
・生活圏近隣の森林における、表面の枝葉や落葉の除去

が具体例として挙げられます。

この手法については、例えば、以下のような点に留意が必要です。

(メリット)
・その場所からは放射性物質がある程度なくなるので、放射線による影響は軽減される。

(デメリット)
・物を除去することで、本来の効用まで失われてしまうことがある(例:農地表面の肥沃な土壌、森林の生態系などの維持に必要な機能)
・発生した物を別の場所に輸送し、別途管理したり、処分したりする工程が必要になる。

遮る


これは、放射性物質と、その影響を受けている人との間に何らかの遮蔽物を置くことで、放射線による影響を軽減させることです。

考慮すべき放射線の種類やその性質については、こちらの記事こちらの記事こちらの記事こちらの記事を参照いただければと思いますが、放射線の透過力はその種類によって異なります。

透過力が小さいα線は紙のような薄い物でも遮蔽できますが、透過力が大きなγ線は鉛や鉄の厚い板でなければ遮蔽できません。

つまり、その放射線の種類や量などに応じて、適切な遮蔽体で遮る、ということです。

福島第一原子力発電所の事故後の環境汚染への対応としては、

・農地の反転耕(農地の表面近くの土と、より深い部分の土を混ぜたり、入れ替えたりすること)
・法面などの被覆

が具体例として挙げられます。

前述した「取り除く」と表裏の関係にもなり得ますが、この手法については、例えば、以下のような点に留意が必要です。

(メリット)
・物を除去しないので、その場所の本来の機能を大きく損なわない(例:農地表面の肥沃な土壌、森林の生態系などの維持に必要な機能)
・発生した物を別の場所に輸送し、別途管理したり、処分したりする工程が必要ない。

(デメリット)
・影響は軽減されるものの、放射性物質はその場所にあるため、例えば、農地では農作物への移行への対策が必要になる。
・被覆や遮蔽をした物が長期的に劣化や損壊しないよう、長期的に管理していく必要がある。

遠ざける


「遠ざける」という名前にはなっていますが、これは、放射性物質への対策を取るのではなく、その影響を受けている人が放射性物質から「遠ざかる」ことです。

福島第一原子力発電所の事故後の環境汚染への対応としては、

・一時的な避難
・転居

が具体例として挙げられます。

この手法については、例えば、以下のような点に留意が必要です。

(メリット)
・放射性物質からの影響は、距離を取るほど小さくなるので、外部被ばく線量は確実に低減する。
・汚染された場所で何らかの作業を行う訳ではないので、発生する物の輸送や管理も不要。

(デメリット)
・前述した「取り除く」や「遮る」よりも、放射線量の低減により長い時間を要する。
・一時的な避難や転居に伴う、住民への経済的・社会的影響が大きくなる可能性がある。

除染とは

それでは、ここまで示した「取り除く」「遮る」「遠ざける」のうち、どれが除染の手法に該当するのでしょうか。

例えば、国が示しているガイドライン(除染関係ガイドライン)には、「取り除く」及び「遮る」が除染の具体的な手法として挙げられています。

一方で、「遠ざける」については、除染の手法としては取り上げられていません。

除染の手法としてイメージしやすい「取り除く」に加えて、「遮る」も除染の手法として考慮されている点からも、除染の目的が、(特に)外部被ばく線量の低減であることがお分かりいただけるのではないかと思います。

上に挙げたメリット、デメリットも考慮しながら、空間線量率や現場の状況などに応じて、また、放射線防護の原則(こちらの記事もご参照ください)も念頭に、どの手法を選択すべきか、その都度検討する、ということになります。

まとめ

除染の目的とは、主に外部被ばく線量の低減であることをお話した後に、それを実現するための手法として、

・取り除く
・遮る
・遠ざける

という3つの手法があることをお話しました。

また、このうち、除染の手法としては、

・取り除く
に加えて、

・遮る

も考慮されること、そして、その具体的な手法については現場の状況等に応じてその都度選択される、という説明をしました。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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