こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
皆さんは、除染が行われてきた場所と言えば、真っ先にどこを思い浮かべますか。
ほとんどの人は、まず、福島第一原子力発電所がある福島県を思い浮かべるでしょう。
もちろんそれは間違っていませんが、除染は福島県以外の県でも行われてきました。
そうした県でも、当然除染に伴って土壌や廃棄物が発生し、保管を含めたその処理が行われてきました。
ここでは、その内、土壌の処分について特に焦点を当ててお話ししたいと思いますが、この記事では、その前段階として、福島県外における除染の状況や、除染で発生した土壌の保管状況について説明したいと思います。
つまり、今回は、
・ 福島県以外では、どんな風に除染が行われてきたの?
・ 除染で発生した土壌は今どんな風に保管されているの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (まずは経緯と現状を整理)福島県外における除去土壌の処分について(その1)
- 福島県外における除染について
- 除染で発生する土壌及び廃棄物の分類
- 福島県外における除去土壌の保管状況
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(まずは経緯と現状を整理)福島県外における除去土壌の処分について(その1)
それでは、最初に福島県外における除染の状況を整理した後に、その除染で発生した土壌が現在どのように保管されているか、現状を説明したいと思います。
福島県外における除染について
こちらの記事でも解説したように、福島県以外では、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の63市町村が汚染状況重点調査地域に指定され、必要な除染が行われました。
汚染状況重点調査地域においては、2018年3月末までに面的除染が完了していて、物理的減衰による空間線量率の低減もあり、汚染状況重点調査地域の数は2025年9月末時点で55市町村になっています。
ちなみに、福島県内については、当初41市町村が汚染状況重点調査地域に指定されていましたが、2025年9月末時点では9市町村になっています。
汚染の程度が大きかった福島県内の方が汚染状況重点調査地域の指定の解除が進んでいる状況になっていますが、これには、この除去土壌の処分の問題が関与していますので、この後の記事でご説明したいと思います。
除染で発生する土壌及び廃棄物の分類
除染によって発生する物としては、「土壌」と「廃棄物」があります。
国際的には「土」と「廃棄物」は区別されることはなく、両方とも「廃棄物」とみなされることが一般的ですが、日本の法体系では、従来からある廃棄物処理法の流れもあり、この2つは明確に区別されています。
除染で発生する土は「除去土壌」、除染で発生する廃棄物は「除染廃棄物」というのが正式な呼称で、2つを合わせて除去土壌等と呼ばれることもあります。
このうち「除染廃棄物」は法律上は「特定一般廃棄物」や「特定産業廃棄物」に分類され、廃棄物処理法に規定された処理基準に上乗せされた基準がかかりますが、要件を満たした廃棄物処理施設で適宜処理がされています。
一方で、「除去土壌」については、事故後、処分のための基準が長年なく、現場に長期保管するという実態が続いてきました。
そこで、本記事では、除染廃棄物については議論の対象とせず、「除去土壌」のみを対象としたいと思います。
また、大切な前提として、福島県以外には、ある程度まとまった地域内で発生した除去土壌等を一時的に保管しておく仮置場がある県もありますが、中間貯蔵施設のような、県内で発生した除去土壌を集約して管理するための施設はない、という事実があります(中間貯蔵施設については、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事をご覧ください)。
ですので、仮置場がない地域では、除染した場所の地下に埋設するなどして管理しており(いわゆる現場保管)、除去土壌等はある程度分散して管理されてきました。
福島県外における除去土壌の保管状況
こちらのウェブサイトに掲載されたデータをもとに、図1に各県別の除去土壌の保管量を示しました。
保管量については、総量が約330,000m3で、最も多い栃木県が約3分の1を占め、その次に多い千葉県が約30%を占めています。
ちなみに、こちらの記事でも解説したように、福島県内の除染で発生し、中間貯蔵施設に搬入された除去土壌等の量は約14,000,000m3です。
福島県内で、中間貯蔵施設に輸送されてくるものの中には、外の仮設焼却施設で焼却された後の物もあることなどを考慮すると、単純には比較できませんが、福島県以外の県で保管されている除去廃棄物(約140,000m3)を含めると、除去土壌等の発生量は、福島県内の方が約30倍も多いという数値が出てきます(14,000,000/(330,000+140,000)≒30)(規模感を掴むための数値とお考えください)。
これについては、まず、福島県内の方が放射性物質による汚染の程度が大きくて、除染の対象となった範囲も広く、また除染の手法も異なったことが理由として考えられます。
また、福島県内では、多くの市町村において農地や住宅の庭の表土を除去する手法が取られましたが、福島県外ではこうした手法は基本的に取られず、局所的に空間線量率が高い、主にいわゆるホットスポットにおける土壌の除去等などが行われました。
これもまた、福島県内とそれ以外の県で、除去土壌等の発生量に違いが生じた理由だと思います。

図1 県別の除去土壌の保管量(2025年3月末時点)
また、図1と同じデータを元に、図2に各県別の除去土壌の保管箇所数を示しました。
保管箇所数については、約29,000箇所ある保管場所うち、栃木県が約86%を占めていることが分かります。
次に多い千葉県が約6%ですので、栃木県においてかなり保管箇所数が多い、つまり分散してそれぞれの除染現場に保管されていることが推測されます。
それぞれにメリット・デメリットはあるかと思いますが、一方で、その他の県、特に千葉県などではそれと比較すると集約した管理がされていることが分かるかと思います。

図2 県別の除去土壌の保管箇所数(2025年3月末時点)
次に、除去土壌の処分に関する検討チーム会合の資料をもとに、保管場所の土地所有者別の保管量及び保管箇所数を図3、図4及び図5に示しました。
図3に示したように、保管量では、約8割が国、県、市町村が所有する公有地において保管されていることが分かります。
特に、汚染状況重点調査地域においては、市町村が除染の実施主体になっていますので、市町村が所有する公有地が約65%を占めていることが分かります。
国や県については、それぞれ国有地や県有地の除染で発生した除去土壌を保管しているケースもあるのではないかと思います。

図3 保管場所の土地所有者別の除去土壌の保管量(2024年3月末時点)
逆に、保管箇所数では、図4に示したように、約9割が個人、民間企業という、民有地において保管されていることが分かります。
民有地では、その土地で除染された際に発生した除去土壌がその土地(例:地面の下)に保管されているため、こうした少量分散型の保管が続いているのではないかと思います。
民有地で発生した除去土壌は、一旦仮置場に集約した後、中間貯蔵施設へ輸送してきた福島県内の市町村とは異なる実情がお分かりいただけるかと思います。

図4 保管場所の土地所有者別の除去土壌の保管箇所数(2024年3月末時点)
その小規模分散型の保管状況を示したのが下の図5になります。
保管箇所数は約29,000箇所ですが、そのうち、10m3以下の保管場所が9割以上を占めています。
フレコンバックなどの保管容器の容量が概ね1m3ですから、それが10個以下の場所、ということになります。
福島県内にはこの保管容器が何千、時に何万と積み上がっていた仮置場があったことを考えると、福島県以外の県の保管場所はかなり小規模であることがお分かり頂けるかと思います。

図5 規模別の除去土壌の保管箇所数(2024年3月末時点)
まとめ
今回は、福島県外における除染の状況と、その除染によって発生した除去土壌の保管状況について解説しました。
福島県外を含め、汚染状況重点調査地域における除染は2018年3月までに終了し、それに伴い現時点で約330,000m3の除去土壌が約29,000箇所に保管されています。
その保管形態は、保管量ベースでは公有地に多く保管されていますが、保管箇所数ベースではその多くが民有地に保管されており、そのほとんどは一箇所あたり10m3以下の少量の除去土壌が保管されています。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
(後日公開)
英語版
(後日公開)
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。

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