(特に留意したい核種とは)福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質について

除染、特定廃棄物の処理

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今日は、

・福島第一原子力発電所の事故でどのような放射性物質が放出されたの?
・そのうち、どの物質に特に注意する必要があるの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. (特に留意したい核種とは)福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質について
    • ヨウ素131
    • セシウム134
    • セシウム137
    • その他の放射性物質
  2. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(特に留意したい核種とは)福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質について

幾つかの報告書などから、福島第一原子力発電所の事故によって放出された主な放射性物質の化学的性質や放出量などをまとめると以下のようになります。

物理学的半減期沸点(℃)融点(℃)環境への放出量(PBq)
キセノン1335日-108-11211000
ヨウ素1318日184114160
セシウム1342年6782818
セシウム13730年6782815
ストロンチウム9029年13807690.14
プルトニウム23924100年32356403.2×10^(-6)

(出典)ICRP Pub72、理化学辞典(第5版)、原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書

これらのうち、特に留意しなければならない放射性物質はヨウ素131、セシウム134、そしてセシウム137です。

それぞれの特徴などを以下にまとめました。

なお、安定同位体や放射性同位体については、こちらの記事をご覧ください。

ヨウ素131


ヨウ素131は沸点が184度、融点が114度なので、後述するセシウムと比較すると揮発性は低く、事故などが発生した場合、セシウムと比較すると近傍に拡散、沈着します。

物理学的半減期が約8日となっており、他の放射性物質と比較すると短いため、その影響は比較的早期に薄れていきます。

元々ヨウ素は、昆布などの海藻類に含まれている物質で、甲状腺ホルモンの主原料です。

甲状腺ホルモンは新陳代謝や子どもの体や脳の発育・発達を促進するという重要な役割を担っているので、その原料となるヨウ素も重要な元素です。

しかし、甲状腺は放射性同位体であるヨウ素131と、安定同位体のヨウ素127を区別できずに、甲状腺に取り込むため、被ばく量が非常に多い場合には、甲状腺がんの原因となる可能性もあることから、留意が必要です。

1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故の際には、地上に降下したヨウ素131や、食物連鎖の中で汚染された野菜、牛乳、肉などを食べた子ども達の中で実際に小児甲状腺がんが発症しました。

福島の事故の場合は、現時点では放射線と甲状腺がんとの因果関係は見られないが、更に継続して調査する、というのが国などの現時点での結論になっていますが、機会を見つけてより詳細に解説してみたいと思います。

(参考)ウィキペディア(ヨウ素131)

セシウム134


セシウムは量は多くありませんが、天然にも存在する元素です。

ただ、セシウム134はウランの主要な核分裂生成物で、原子力発電の過程において、原子炉内で生成されます。

沸点が678度、融点が28度なので、事故などで環境中に放出された直後は気体状になっていて、遠くまで拡散しますが、環境中で徐々に冷やされて、融点以下になると、大気や雨などを介して地上に沈着します。

半減期が2年程度で、放射性同位体のセシウム137と比較すると、短期間でその影響の程度は低下していきますが、特に事故後初期はその影響に留意する必要があります。

(参考)ウィキペディア(セシウム134)

セシウム137


セシウム137はセシウム134と同様、ウランの主要な核分裂生成物です。

化学的性質はセシウム134と同じで、沸点が678度、融点が28度なので、事故などが発生した場合、一旦気体状で遠くまで拡散した後、徐々に冷やされて、大気や雨などを介して地上に沈着します。

セシウム134との違いはその物理学的半減期で、約30年と比較的長いので、中長期的には最も留意が必要となる放射性核種です。

(参考)ウィキペディア(セシウム137)

その他の放射性物質

特に留意すべきなのは上述した3つの放射性物質ですが、その他の放射性物質についても、ごく簡単に触れておきたいと思います。

キセノン133


キセノンは、車のヘッドライトで使用されているキセノンランプに封入されている希ガスとして知られていますが、その放射性同位体であるキセノン133は主要な核分裂生成物の一つです。

キセノン133は放射能で見た場合の放出量は最も多いですが、物理学的半減期が5日と、比較的短く、また、沸点及び融点が非常に低く、揮発性が高いのが特徴です。

このため、事故直後のプルームからの直接の被ばくには留意が必要ですが、地上に沈着することもないので、やがてその影響は薄れていきます。

(参考)ウィキペディア(キセノン133)

ストロンチウム90


ストロンチウム90は、物理学的半減期は約29年で、セシウム137とほぼ同じです。

また、化学的性質がカルシウムに良く似ているので、体内に取り込まれると骨に蓄積される傾向にあり、生物学的半減期も長いのが特徴です。

沸点(1,380度)及び融点(769度)は比較的高く、揮発性は低いため、遠くまでは拡散せず、事故などで環境中に放出されると、放出地点の近傍に拡散されます。

ただ、福島での事故については、セシウムと比較して放出量はおよそ100分の1で、土壌調査でも、過去の大気圏核実験による影響の範囲内ということが分かっています。

(参考)ウィキペディア(ストロンチウム90)

プルトニウム239


プルトニウム239はその高い核分裂性を利用して、原子力発電所の核燃料や、時に核兵器にも利用されてきました。

主要な核分裂生成物の一つでもあるプルトニウム239の物理学的半減期は24,100年と非常に長く、環境中に放出されると、長期に渡って環境中にとどまります。

また、沸点(3,235度)及び融点(640度)は比較的高く、揮発性は低いため、ストロンチウム90と同様、事故などで環境中に放出されると、放出地点の近傍に拡散されます。

ただ、福島での事故については、セシウムと比較して放出量は非常に少なく、土壌調査でも、ほぼ過去の大気圏核実験による影響の範囲内ということが分かっています。

(参考)ウィキペディア(プルトニウム239)

まとめ

福島第一原子力発電所の事故に放出された放射性物質の種類や量、そして特に留意したい以下の3つの放射性物質について説明しました。

・ヨウ素131
・セシウム134
・セシウム137

また、その他の主な放射性物質の性質などについてもごく簡単に説明しました。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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