こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
今日は、
・放射線の勉強をしていて、被ばく線量の指標の一つとして「預託実効線量」という言葉を聞いたが、具体的にどのようなものなのか、知りたい。
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- 預託実効線量とは、○○被ばくの実効線量です。
- 計算の仕方
- 過去に摂取した食べ物等に関する預託実効線量の求め方
- 体外計測法
- バイオアッセイ
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
預託実効線量とは、○○被ばくの実効線量です。
まず、抑えておきたいポイントは、預託実効線量とは、「内部被ばく」の実効線量ということです。
単に「実効線量」というと、内部被ばく及び外部被ばくの両方が寄与する実効線量を指すことが多いですが、特に内部被ばくに関連する実効線量の場合は、「預託実効線量」という指標を使います。
「預託」とは、一般的には、金銭または物品を一時的に預けることなどを指しますが、もちろん、ここでは金品は一切関係ありません。
それでは何故、「預託」という言葉を使うのでしょうか。
下の図をご覧ください。
人が呼吸などにより、放射性物質を体内に摂取した場合、
・放射性物質の原子核の壊変 及び
・代謝作用による排泄(尿、便)
により、放射性物質の量は減少していきます。
預託実効線量は、放射性物質を体内に摂取した場合に、それ以降の生涯にどれだけの放射線を被ばくにすることになるかを推定した被ばく線量のことです。
つまり、一生分の被ばく線量を被ばくした年に積算して評価することから、「預託」という言葉を使っているのです。
ちなみに、被ばく線量を積算する年については、
・大人:摂取後50年間
・子ども:摂取後70歳になるまで
とされています。
「シーベルト」を単位に持つ、他の指標について勉強されたい方は、こちらの記事をご覧ください。
計算の仕方
では、預託実効線量はどのように計算するのでしょうか。
基本的には、実効線量の計算方法と同じで、まずは放射線の種類による影響の違いを考慮し、その後、臓器の種類による影響の違いを考慮し、全身への影響を求めます。
詳細は、こちらの記事を参照してください。
ただし、実効線量と同様、このような複雑な計算をすることは困難なので、預託実効線量係数という換算係数が用意されています。
具体的には、
預託実効線量(μSv) = 摂取した放射性物質の放射能(Bq)× 預託実効線量係数(μSv/Bq)
で計算できます。
この預託実効線量係数は放射性物質の種類、被ばくした時の年齢、摂取経路(経口摂取/吸入摂取)などによって具体的な数値が与えらています。
具体的な係数について説明していると、あまりに詳細な内容に入ってしまうので、ここでは割愛します。
また、必要に応じて解説したいと思います。
過去に摂取した食べ物等に関する預託実効線量の求め方
これから摂取する食物等については、放射能を事前に測定できるので、上記の方法を使った被ばく線量の算出も可能ですが、過去に摂取した食物等による被ばく線量はどのように評価すればよいのでしょうか。
原子力発電所の事故が引き起こした環境汚染による被ばくなど、被ばく線量の評価については、「これからする被ばく」よりも、「過去にした被ばく」の線量評価が求められるケースも多いかと思います。
過去に摂取した放射性物質による内部被ばくの線量評価方法については、具体的には以下の2つが考えられます。
体外計測法
体の外から、体の内部にある放射性物質から放出される放射線量を計測し、摂取した放射性物質の量を評価する方法です。
この手法の代表的な例が、下の図に示したホールボディカウンタと呼ばれる機器です。
これにより、全身の内部被ばくの量を推計することができます。
また、甲状腺など、特定の部位に関する内部被ばくの量を評価するための機器もあります。
出典:除染アーカイブサイト(http://josen.env.go.jp/archive/detail/?TO-03-P0031&category)
前述したように、放射性物質は体内に入っても、自身の原子核の壊変や、人間の代謝作用によって、その量は減少していきます。
機器の検出限界を下回るような低い濃度の放射能を測定することはできないので、被ばく線量を評価するためには、被ばく線量にもよりますが、摂取後、比較的早期に測定する必要があります。
また、子どもについては、大人よりも代謝のスピードが速いため、更に早期に測定する必要があります。
バイオアッセイ
尿などに含まれる放射性物質の量を測定し、そこから摂取した放射性物質の量を推計するバイオアッセイです。
検出するためには、できるだけ早期に測定した方が良い点については、体外計測法と同様です。(もちろん、その内部被ばくが、原子力発電所の事故に伴って放出された放射性物質に起因する被ばくのように、本来望まれない被ばくである場合には、検出できないくらい少ない被ばくであることに越したことはありません。)
まとめ
預託実効線量とは、内部被ばくによる実効線量で、被ばく後にする一生分の被ばく量を、被ばくした年にするものと仮定して求められます。
体内に摂取する物(食物、空気等)の中に含まれる放射性物質の放射能に、放射性物質の種類や摂取経路ごとに定められた預託実効線量係数を掛けることで求められます。
また、過去に摂取した放射性物質が原因となる内部被ばくについては、摂取した放射性物質の放射能を直接測定することはできませんが、体内に一定程度の放射性物質がまだ残っている場合には、体外計測法や、バイオアッセイにより、預託実効線量を推計することが可能です。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
コメント
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