こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
今日は、
・福島第一原子力発電所の事故でどれくらいの環境汚染が生じたの?
・汚染状況はどのように変化していったの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (時系列で解説)福島第一原子力発電所の事故による環境汚染について(その1)
- 環境汚染の変化(東日本広域)
- 環境汚染の変化(福島第一原子力発電所近傍)
- 航空機モニタリングの結果から分かること
- 汚染の範囲は東北から関東まで
- 時間の経過とともに、全体として空間線量率は下がる
- 空間線量率が高い箇所ほど低減率は大きい
- 福島第一原子力発電所に近いほど空間線量率が高く、離れるほど低くなるが、例外も多い
- 時間の経過とともに、空間線量率が低減するスピードも減少する
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(時系列で解説)福島第一原子力発電所の事故による環境汚染について(その1)
福島第一原子力発電所の事故後、空間線量率の大小に差はありますが、東北地方から関東地方にかけての広い範囲で放射性物質による汚染が確認されました。
東日本広域における空間線量率の変化と、福島第一原子力発電所近傍の空間線量率の変化とを分けて見てみましょう。
なお、図は全て原子力規制委員会の航空機モニタリングに関するこちらのページから引用したものですので、より詳細な情報については、直接ご確認ください。
環境汚染の変化(東日本広域)
東日本広域のモニタリング結果は、事故から1年3か月ほど経過した2012年6月時点のデータから見ることができます。
凡例に示されていますが、赤色が空間線量率が高い箇所で、その後オレンジ→黄色→緑→青となるほど、空間線量率が低いことを示しています。
一部、色が白になっている箇所がありますが、これは積雪などの影響で測定できなかった箇所です。
事故後、測定や評価の手法も改善等されていますので、あまり小さな範囲の変化を見るよりも、全体的な変化や傾向を見るのが良いかと思います。
おおよそ10年間のモニタリングの結果からわかる点などは最後にまとめて書いてみました。
↑2012年6月28日時点
↑2012年12月28日時点
↑2013年11月19日時点
↑2014年11月7日時点
↑2015年11月4日時点
↑2016年11月18日時点
↑2017年11月16日時点
↑2018年11月15日時点
↑2019年11月2日時点
↑2020年10月29日時点
↑2021年10月25日時点
↑2022年10月21日時点
環境汚染の変化(福島第一原子力発電所近傍)
福島第一原子力発電所の近傍におけるモニタリング結果は、事故から1月あまり経過した2011年4月時点のデータから見ることができます。
省略していますが、凡例は東日本広域と同じで、赤色が空間線量率が高い箇所で、その後オレンジ→黄色→緑→青となるほど、空間線量率が低いことを示しています。
前述したように、事故後、測定や評価の手法も改善等されていますので、あまり小さな範囲の変化を見るよりも、全体的な変化や傾向を見るのが良いかと思います。
おおよそ10年間のモニタリングの結果からわかる点などは最後にまとめて書いてみました。
↑2011年4月29日時点
↑2011年11月5日時点
↑2012年6月28日時点
↑2012年11月16日時点
↑2013年9月28日時点
↑2014年9月20日時点
↑2015年9月29日時点
↑2016年10月15日時点
↑2017年9月25日時点
↑2018年10月16日時点
↑2019年9月18日時点
↑2020年10月2日時点
↑2021年10月25日時点
↑2022年10月21日時点
航空機モニタリングの結果から分かること
以上の結果から見て分かることを以下に示したいと思います。
汚染の範囲は東北から関東まで
当然地域差はありますが、汚染の範囲は北は岩手県、南は千葉県などにも広がっています。
山脈などによって放射性物質を含んだ雲などが移動しにくくなるという要因はあるとは言え、その影響が県境で完全に遮断されるわけではないので、その周辺にも多少なりとは広がりもあるかと思います。
ただし、以下にも述べますが、その影響については、基本的に福島第一原子力発電所から離れるほど小さくなっていきます。
時間の経過とともに、全体として空間線量率は下がる
基本的なことではありますが、時間の経過とともに、全体的に空間線量率が下がっていることが分かります。
事故発生当初は赤色や黄色だった箇所も、時間の経過とともに緑色や青色などになっており、薄い青色だった箇所も、より濃い青色になっていることが分かります。
一方で、細かく観察すると、低い空間線量率のカテゴリー(青色)の、ごく一部の箇所では、時間の経過後に、一時的に、より空間線量率が高いカテゴリーに変化した箇所も見られます。
これは、実際の現場で空間線量率が若干上昇しているという可能性もゼロではありませんが、基本的には、冒頭にも述べたように、測定や評価の仕方が変わっていることが理由ではないかと考えられます。
特に青色の領域は、空間線量率の分類が細かく設定されているので、測定や評価の手法の変化によって、こうした現象は起こりえるものと考えられます。
空間線量率が高い箇所ほど低減率は大きい
先ほど、全体として空間線量率は低減している、と言いましたが、そのスピードには場所によって差があることも分かります。
具体的には、元々空間線量率が高い場所(例:赤やオレンジ)は低減するスピードは大きいですが、元々空間線量率が低い場所(例:青色)の低減スピードは比較的小さいことが分かります。
こうした現象が起こる理由については、こちらの記事で解説します。
福島第一原子力発電所に近いほど空間線量率が高く、離れるほど低くなるが、例外も多い
福島第一原子力発電所の事故により環境中に放出された放射性物質は、それらを含むプルームが地上にある物に直接接触して沈着する場合や、降雨等を通じて地上に降下して沈着する場合があります。
いずれにせよ、放出地点から近いほど、より多くの放射性物質が地上に沈着する傾向にあることは直感的にも理解できるかと思います。
また、こちらの記事でも解説しましたが、福島第一原子力発電所の事故によって放出された放射性物質の中には、揮発性が高くなく、ごく近傍に沈着するものもあります。
ただ、特に揮発性の高い放射性物質は、遠くまで到達し、特に風向きや降雨状況に応じて地上に沈着することになります。
その結果、福島第一原子力発電所から近いほど空間線量率は高く、遠いほど低くなる、という全体的な傾向は示しつつ、必ずしも綺麗な同心円状の分布にはならず、地域差も生じる、という結果になります。
特に福島第一原子力発電所から北西方向は、当時の風向などが影響した結果、他の地域と比べて高い空間線量率を示しています。
時間の経過とともに、空間線量率が低減するスピードも減少する
もう一つの傾向としては、空間線量率の低減率自体も時間の経過とともに下がっている、ということです。
事故後初期の数枚の図と、事故から10年程度経過した後の数枚の図を比較すれば分かりやすいかと思います。
最初の頃は、空間線量率が急速に低下していて、例えば福島第一原子力発電所の北西方向の赤やオレンジの地域の面積が小さくなっているのが良く分かります。
また薄い青色だった箇所でも、色が濃い場所が増えているのが分かるかと思います。
一方、一定期間が経過すると、大きな変化は見えにくくなってきます。
特に、2021年と2022年の図などは違いを見つけること自体が難しくなっているほどです。
こうした現象が生じる理由についても、こちらの記事で解説したいと思います。
まとめ
今回は、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故の後の環境汚染の広がりや、その変化の様子について解説しました。
主なポイントとして、
・汚染の範囲は東北から関東まで
・時間の経過とともに、全体として空間線量率は下がる
・空間線量率が高い箇所ほど低減率は大きい
・福島第一原子力発電所に近いほど空間線量率が高く、離れるほど低くなるが、例外も多い
・時間の経過とともに、空間線量率が低減するスピードも減少する
というお話をしました。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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