こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
現在、国が進めている、除染で発生した土の減容や再生利用等に対する、IAEAのレビューに関して、こちらの記事で、国際原子力機関(IAEA)が進めているレビューの背景等について説明しました。
今回からは、そのレビュー内容の詳細について、私なりの解釈を解説していきたいと思います。
1回で全ての内容について解説するのは難しいので、今回は、まず、最終報告書の構成等について解説した後で、要旨に書かれている全体的な評価について説明したいと思います。
つまり、今回は、
・ 除去土壌の再生利用等に関するIAEAの最終報告書ってどんな構成になっているの?
・ 除去土壌の再生利用等について、IAEAは全体的にどんな評価をしたの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その2)
- IAEA最終報告書の構成
- IAEA最終報告書における全体的な評価
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その2)
それでは、こちらの記事でも紹介した、最終報告書の構成と、その全体的な評価について解説していきたいと思います。
IAEA最終報告書の構成
最終報告書の全体の構成は以下のとおりです。
第Ⅰ章– はじめに
第Ⅱ章– 3回の国際専門家会合の内容
第Ⅲ章– 規制的側面
第Ⅳ章– 除去土壌の減容及び再生利用
第Ⅴ章– 除去土壌及び廃棄物の最終処分
第Ⅵ章– 国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与
別添1:第1回専門家会合議題
別添2:第2回専門家会合議題
別添3:第3回専門家会合議題
別添4:3回の専門家会合期間中の現地視察の概要
「第Ⅰ章:はじめに」という導入や、「第Ⅱ章:3回の国際専門家会合の内容」という会合全体の紹介から始まるのは、他の報告書でも見られるようなアプローチかと思います。
その後の、「第Ⅲ章– 規制的側面」「第Ⅳ章– 除去土壌の減容及び再生利用」「第Ⅴ章– 除去土壌及び廃棄物の最終処分」「第Ⅵ章– 国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」という各章が、この報告書の「4本柱」とでも言うべき特徴的な内容であり、重要なポイントが書かれている部分かと思います。
別添1〜3はそれぞれの会合における議題であり、また別添4は第1回と第2回会合で行われた現地調査の概要が取りまとめられています。
関心のある方はご覧いただければと思います。
IAEA最終報告書における全体的な評価
専門家チームによる個別の事項の評価について言及する前に、全般的な評価についてお話ししておきたいと思います。
前述した各項目(例:規制的側面、除去土壌の減容及び再生利用、除去土壌及び廃棄物の最終処分、国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与)に関する評価の取りまとめについては、最終報告書の冒頭部分にある「要旨」に書かれており、さらにその要旨の中で、全体を総括した「全体的な評価」が書かれていますので、その内容について見ていきましょう。
個別の評価にはかなり専門的な内容も含まれますが、この部分については、比較的平易な表現で書かれており、全体像を捉えるにはとても良い内容になっているかと思います(和訳については、こちらのWebサイトに掲載された全訳(仮訳)を引用しています)。
なお、実際の報告書には書かれていませんが、説明のための利便性の観点から、各評価項目についてアルファベット(a, b, c…)を付しています。
この一文が、特に環境省にとっては、約90ページに渡る報告書の中で最も重要と言える文かもしれません。
この専門家会合で議論されている内容は多岐に渡りますが、(特に開催を依頼した側にとって)最も関心のある事項は、その活動がIAEA安全基準に合致しているか(整合しているか)ということかと思います。
その点において、除去土壌及び廃棄物の再生利用及び最終処分に関する取組や活動がIAEA安全基準に合致していると評価されたことは大きな意味があると思います。
ただ、この文のもう一つのポイントは、「これまで環境省によって行われてきた」という部分かと思います。
この次の文とも関連していますが、これは言い換えれば、この評価の時点までの取組や活動がIAEA安全基準に合致している、と結論づけられたものであって、今後については、引き続き対応すべき課題がある、ということかと思います。
冒頭の「実証段階以降」というは、ほぼ「2025年度以降」に相当するかと思います。
これは、こちらの記事でも説明したように、技術開発等に関する実証事業を含む、中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略の成果が、2024年度末までに取りまとめられることになっているためです。
特に対応すべき内容として明示されているのが「再生利用及び最終処分の管理期間後の安全評価の実施」と「環境省の規制機能の独立性の実証」になっていますが、これは該当する記事でまた解説したいと思います。
そして、最後に環境省の取組へのフォローアップ評価が行われることが示唆されています。
まだ具体的な進め方については言及されていませんが、いずれ、こうした、IAEA安全基準への整合性等に対して、何らかのフォローアップのための評価が行われるのかもしれません。
こちらの記事でも解説しましたが、福島県内の除染で発生した土等は、2045年3月までに福島県外で最終処分されることになっていて、ここではその実現に向けて多くの課題があるということが示されています。
専門家チームの方々も、現地を見て、また環境省や地元の人々と議論する中で、その実現がいかにチャレンジングなものであるか、ということを認識されたのだと思います。
ここでは、除去土壌の再生利用に関する取組から得られた知見の、国際社会との共有が奨励されています。
原子力発電所等の事故による大規模な環境汚染が起こる確率は、他の事象と比較するとかなり小さいと言えますが、原子力施設の廃止や、ウラン鉱山跡地の環境修復等の過程で、放射性物質を含む土壌が大量に発生するケースはあります。
私としても、福島での知見が、こうした問題解決に向けた一助になればと思いますし、また、逆に、日本が、他国のこうした事例から得られた知見を、将来的な課題解決に役立てることができればと思います。
IAEAによる、今後の継続的な協力についても言及されています。
この事業は、2045年3月まで継続していくことが見込まれます。
今回はこの時点までで一つの区切りを迎えますが、折に触れて、IAEAとも状況を共有し、特に指摘を受けた課題(例:長期的な安全評価、規制機能の実施機能からの分離)については、必要な助言を得ることも有効かと思います。
これも勇気づけられるコメントだと感じました。
除去土壌の再生利用は、故郷への帰還を含めた、国民の放射線防護上必要な政策だと思いますが、それだけはなく、地域の持続可能性の促進等にも寄与している、という視点も重要かと思います。
また、IAEAから指摘された課題に取り組みつつも、日本政府等の関係者は、震災以降成し遂げてきた成果に自信を持ち、国際社会との情報共有、協働を続けていただきたいと思います。
まとめ
今回は、最終報告書に書かれた全体的な評価について解説してきましたが、一番重要なポイントとしては、a.にも書かれたように、「これまで環境省によって行われてきた、除去土壌及び廃棄物の再生利用及び最終処分に関する取組や活動がIAEAの安全基準に合致している」と結論づけられたこと、ただし、「実証段階以降については、専門家チームが行った助言を満たす対応策を環境省が継続的に模索することで、IAEAの安全基準に合致したものになると思われるが、このことは、今後のフォローアップ評価によって確認することができる。」という点かと思います。
次回以降は、最終報告書のより詳細な内容について解説していきたいと思います。
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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