除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その5)

除染、特定廃棄物の処理

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

現在、国が進めている、除染で発生した土の減容や再生利用等に対する、IAEAのレビューに関して、こちらの記事で、国際原子力機関(IAEA)が進めているレビューの背景等、こちらの記事で、IAEAによる全般的な評価について説明しました。

そして、こちらの記事で、「第Ⅲ章:規制的側面」、こちらの記事で「第Ⅳ章:除去土壌の減容及び再生利用」に関する詳細な評価についてそれぞれ解説しました。

今回は、その続きとして、最終報告書の「第Ⅴ章:除去土壌及び廃棄物の最終処分」について説明したいと思います。

つまり、今回は、

・ 除去土壌の再生利用等に関するIAEAの最終報告書に書かれた「除去土壌及び廃棄物の最終処分」って何?
・ IAEA最終報告書は「除去土壌及び廃棄物の最終処分」についてどんな評価をしたの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その5)
  2. IAEA最終報告書に書かれた「除去土壌及び廃棄物の最終処分」とは
  3. IAEA最終報告書「第Ⅴ章:除去土壌及び廃棄物の最終処分」に書かれた評価
    • セクションⅤ.1 除去土壌及び廃棄物の最終処分に関する全般的な取組
    • セクションⅤ.2 放射能濃度の測定
    • セクションⅤ.3 一般的な安全評価を含むセーフティケース
  4. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その5)

それでは早速、最終報告書の「第Ⅴ章:除去土壌及び廃棄物の最終処分」に書かれた内容について見ていきましょう。

IAEA最終報告書に書かれた「除去土壌及び廃棄物の最終処分」とは


ここで対象としている「除去土壌及び廃棄物の最終処分」は、こちらの記事などで解説してきましたが、2045年3月までに福島県外で完了しなければならない、オフサイトの環境回復活動に伴って発生した除去土壌及び廃棄物の最終処分のことです。

IAEA最終報告書「第Ⅴ章:除去土壌及び廃棄物の最終処分」に書かれた評価

以下で、各評価項目について解説していきますが、説明のための利便性の観点から、各評価項目についてアルファベット(a, b, c…)を付しています(実際の報告書には書かれていません)。

セクションⅤ.1 除去土壌及び廃棄物の最終処分に関する全般的な取組

a. 最終処分の管理期間に関する一般的なセーフティケースの実施を含め、最終処分の選択肢の検討に重要な進展が見られる。環境省は、除去土壌及び廃棄物の低レベルまたは極低レベルの放射能を考慮した、感度分析を含む一般的な安全評価を開始している。将来に向けては、2045年3月までに福島県外での最終処分を実現するために取り組むべき課題が数多く存在する。

まず冒頭に登場する「セーフティケース」とは何でしょうか。

同報告書の和訳(仮訳)には以下のように解説されています(こちらのウェブサイトをご参照ください)。

「ある施設又は活動の安全を裏付ける論拠及び証拠を収集したもの。セーフティケースは通常、安全評価の結果が含まれることになり、その中でなされた安全評価と仮定の頑健性と信頼性についての情報(裏付ける証拠と理由を含む)を一般的に含むことになる。一般的なセーフティケースは、主に一般的なデータに基づくものを指し、個別サイトのセーフティケースは、ある施設又は活動の場所に固有の情報に基づくものを指す。」

セーフティケースについてより詳細に知りたい方は、IAEA個別安全指針SSG-23などをご覧いただければと思います。

簡単に言うと、ある施設や活動の安全性を検証する際に行った、放射線防護の観点からの安全評価の結果を含めた一連の文書のことと理解すればよいかと思います。

この事業の場合は、まだ具体的な候補地があるわけではないので、一定の想定を置いた最終処分施設について、既に一般的な安全評価が開始されたことに言及しています。

そして、このセーフティケースの精緻化を含め、2045年3月までの最終処分の完了に向けては、依然として多くの課題があることが述べられています。

b. [最終]処分施設の設計の不確実性を低減するため、環境省は適切な段階で[最終処分]場所に固有の感度分析を追加的に実施すべきである。

上の「a.」でも述べたように、環境省が開始した最終処分施設の安全評価はあくまでも一般的なものであって、将来的に実際に建設される最終処分施設とは様々な点において異なってくる可能性があります。

そこで、その不確実性を低減させるため、実際の最終処分施設の絵姿がより具体的に見えてきた段階で、その施設固有の感度分析を実施すべき、としています。

なお、感度分析とは、2回目の専門家会合のサマリーレポート(こちらのウェブサイトをご参照ください。)では、以下のように解説されています。

「あるパラメータの数値を変化させたときに結果がどの程度変化するか分析すること。」

c. 福島県外での最終処分に関する総合的な戦略及びスケジュールを環境省が明確にすべきだと提案する。

幾度となく解説しているように、この最終処分事業は2045年3月までに福島県外で完了させる必要があります。

その完了までの工程については、中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略にも触れられていますが、特に2025年度以降については、(この最終報告書が公表された時点では)具体的なスケジュールが定められていません(でした)。

ここでは、最終処分の完了に向けたより具体的かつ総合的な戦略やスケジュールを定める必要性が指摘されています。

d. 放射線防護の最適化の要件を満たすために、環境省は、最終処分施設の設計について、実施前の適切な時期に、様々な選択肢を検討すべきである。環境省は、安全面の要素に加え、社会面、環境面及び経済面の要素の観点から、様々な選択肢の価値を理解すべきである。

放射線防護の最適化については、こちらの記事の「f.」においても解説しましたが、放射線防護上の観点からだけではなく、他の要因(例:社会的要因、経済的要因)なども考慮した上で、合理的に達成可能な限り(ALARA)被ばく線量を低くしましょう、という考え方です。

この考え方は当然最終処分施設の設計についても適用されますが、この最適化の概念が適切に適用されているかを確認するため、比較可能な幾つかの選択肢を示すべき、という指摘だと思います。

e. 最終処分のために送られる除去土壌及び廃棄物は、IAEAの廃棄物分類体系(GSG-1)で定義されている、低レベル廃棄物、極低レベル廃棄物として取り扱うことができることから、環境省が示す、浅地中処分施設における最終処分の考え方は、IAEA安全基準に合致している。

放射性廃棄物の分類については、IAEA安全基準の一般安全指針1(GSG-1)に書かれており、「規制免除廃棄物」「極短寿命廃棄物」「極低レベル廃棄物」「低レベル廃棄物」「中レベル廃棄物」「高レベル廃棄物」という6つの区分があります。

この内、最終処分される除去土壌や廃棄物は、その濃縮による放射能濃度を考慮しても、規制を受ける廃棄物として最も放射能濃度が低い「極低レベル廃棄物」かその一つ上の「低レベル廃棄物」として扱うことが可能とされています。

これにより、日本の放射性廃棄物処理体系では地下300メートル以深において処分する地層処分でもなく、70メートル以深で処分する中深度処分でもなく、地表面近くで処分する浅地中処分の施設で処理できる、と評価されています。

f. 8,000Bq/kgは、他の国の基準(例えばドイツ)と同じように導出されたレベルであり、IAEAの廃棄物分類[体系](IAEA GSG-1)で定義されている、低レベル廃棄物と極低レベル廃棄物、または極低レベル廃棄物と規制免除廃棄物を区別するのに適している。

上の「e.」で述べたGSG-1に基づく放射性廃棄物の分類については、あくまで概念であって、その分類のための具体的な放射能濃度は定められていません(各国の裁量のもとに定められる)。

ここでは、こちらの記事の「b.」で解説したスクリーニングレベル(8,000Bq/kg以下)が、「低レベル廃棄物」と「極低レベル廃棄物」または「極低レベル廃棄物」と「規制免除廃棄物」を区別するのに適しているのではないか、と示唆しています。

まだ具体的な案は示されていませんが、最終処分施設の構造については、放射能濃度ごとに変わってくる可能性もあるため、その区分を設定する際に利用可能なのではないか、という指摘だと思います。

g. 環境省の、除去土壌の減容と再生利用に関する取組は、現在及び将来世代の防護に関するIAEAの基本原則に沿ったものであるが、環境省は、安全面、社会面、環境面及び経済面の要素の観点から、様々な処理方法の選択肢におけるメリットとデメリットを理解すべきである。

これは、こちらの記事の「e.」のポイントでも解説しましたが、環境省が行ってきた除去土壌の減容と再生利用の取組は、安全原則の7番目:「現在及び将来の世代の防護」の中で書かれている、「放射性廃棄物の発生は、物質の再利用と再使用のような適切な設計上の対策と手順によって実現可能な最小限の水準に維持されなければならない。」という考え方に合致している、と評価されています。

ただ、その実現には様々な手法があるため、それぞれのメリット、デメリットを理解して最適なものを選択すべき、と指摘されています。

環境省は、2024年度末までに減容や再生利用に関する技術の選定を行う予定ですが、こうした様々な視点を入れた評価が期待されているのだと思います。

セクションⅤ.2 放射能濃度の測定

h. 環境省は、処理前に掘り出した除去土壌について、十分な精度で[放射能濃度を]測定する予定である。

ここで言う「掘り出す」というのは、おそらく中間貯蔵施設の土壌貯蔵施設からの掘り出しのことかと思われますが、環境省がその放射能濃度を再度測定する予定であることに言及しています。

中間貯蔵施設の土壌貯蔵施設については、高濃度用(8,000Bq/kgを超えるもの)と低濃度用(8,000Bq/kg以下のもの)がありますが、再生利用の用途や最終処分施設の種類に応じて、対応する放射能濃度が変わってくるため、再度放射能濃度を測定することについて言及しているものと考えられます。

i. 環境省は、処理後の土壌の[放射能濃度の]測定方法を既に開発しており、再生利用の場所または最終処分施設へ搬出する前の更なる測定において使用する予定である。

最終報告書では、除去土壌中の放射能濃度の連続測定施設について説明されていますが、これは、ベルトコンベアに乗せた除去土壌中の放射能濃度を、NaIシンチレーターなどを使って連続的に測定するものです。

当初中間貯蔵施設で使用されていたもので、その技術を搬出時の測定でも応用する予定であることに言及しています。

セクションⅤ.3 一般的な安全評価を含むセーフティケース

j. これまで[最終]処分施設の設計は、主に操業期間や管理期間を考慮して行われてきた。除去土壌及び廃棄物の埋立処分に関する省令に規定する、提案されている安全対策は、建設期間中及び管理期間中の安全を保証するための必須の要素を網羅している。

最終報告書で言及されている、現在環境省が検討している最終処分施設の構造や維持管理上の対策としては、例えば以下のようなものが挙げられます。

・飛散・流出の防止
・必要に応じた地下水汚染の防止
・生活環境の保全(例:臭気、騒音、振動)
・周囲の囲い(例:フェンス)と標識
・埋立地の覆土
・空間線量率の測定
・記録の保存

これらは、操業期間(おそらく除去土壌や廃棄物の埋立を行っている期間)や管理期間(おそらく埋立作業は終了して、施設の管理を継続している期間)における対策ですが、こうした対策は建設期間(おそらく前述の操業期間も含まれている)や管理期間中の安全を保証するための必須の要素を網羅している、と評価されています。

k. 専門家チームは、操業・管理の安全性と一体的になった閉鎖後の安全性をもとに、最終処分施設の設計を行うことの重要性を強調している。専門家チームは、閉鎖後の安全性に関するセーフティケースと安全評価が開始されていることと、最終処分施設の設計開発を継続する中でさらに取り組まれていくことに注目している。

閉鎖後というのは、施設の管理自体も必要なくなって、施設としては閉鎖された後の状況のことと思われますが、その閉鎖後の放射線防護上の観点からの安全性の確保(いつまで必要な放射線防護対策を実施するのか)という点をまず最初に考えて、設計などを行うことの必要性が強調されているものと考えられます。

言い換えると、その最終処分施設で処分される除去土壌や廃棄物の量や、含まれている放射性核種の種類などから、対策が必要になる期間を想定し、それに基づいて施設を設計すべき、というコメントではないかと思います。

そして、それが実際に既に開始されていること、また、事業の進捗とともにそれがより詳細に行われていくことへの期待が述べられています。

l. 安全評価を含めて、最初から閉鎖後のセーフティケースを作成することで、除去土壌及び廃棄物の最終処分の長期的な安全性について、地域社会やその他のステークホルダーに安心感を与えることになるだろう。

上の「k.」のポイントで述べられた、閉鎖後のセーフティケースを最初から(=最終処分施設の建設前から)作成することの重要性が改めて強調されています。

この閉鎖後のセーフティケースを予め作成することで、最終処分施設がいつまでそこに存在して、いつまで放射線防護対策が取られるのか、という大まかなスケジュールや見通しが立てられるため、その最終処分施設を受け入れる地域の住民などのステークホルダーの安心につながる、というコメントだと思われます。

m. 最終処分施設の開発において次の段階に進む前に、どのような状況や事態が発生した場合に、環境省の(最終処分施設の)事業実施機能が、環境省の規制機能に通知し、その助言、レビュー、同意を求める必要があるのかを明確にした具体的な文書が、いずれ作成される必要がある。

再生利用事業については、こちらの記事の「l.」のポイントに類似の記載がありますが、こちらは最終処分施設に関する記載になります。

最終処分施設については、環境省が運用することになりますので、どのような状況や事態(通常時及び緊急時)が発生した場合に、環境省の実施機能が環境省の規制機能にどのように通知し、環境省の規制機能がそれに対してどのように助言等を行うのか、そのプロセスを明記した文書を作成することの必要性について言及しています。

n. 環境省は、[最終]処分の安全性のために、関連放射性核種の影響を引き続き検討していく。

再生利用事業の関連放射性核種の影響については、こちらの記事の「j.」のポイントに書かれていますが、こちらは最終処分施設の関連放射性核種に関する記載です。

ここには明記されていませんが、ここでも主な放射性核種は放射性セシウムになり、検討対象となるその他の放射性核種としてはストロンチウム90やプルトニウム238があるものと考えられます。

その影響はバックグラウンドレベルと変わらないことが分かっていますが、安心の観点から、継続してその影響を検討していくことが述べられています。

まとめ

今回は、除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書に関して、「第Ⅴ章:除去土壌及び廃棄物の最終処分」に書かれた結論の内容について解説しました。

最終処分の完了に向けた、最終処分施設の基本的な設計や対策の方向性についてポジティブな見解が示された点は、事業の後押しになるものと考えられます。

一方で、閉鎖後の施設に関するセーフティケースや、個別の施設に関するセーフティケースの策定など、事業の進展に伴って解決しなければならない課題も多く残されており、再生利用事業に比べるとその喫緊性はないかもしれませんが、着実に取組を進めていく必要があると考えられます。

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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