除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その6)

除染、特定廃棄物の処理

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

現在、国が進めている、除染で発生した土の減容や再生利用等に対する、IAEAのレビューに関して、こちらの記事で、国際原子力機関(IAEA)が進めているレビューの背景等、こちらの記事で、IAEAによる全般的な評価について説明しました。

そして、こちらの記事で、「第Ⅲ章:規制的側面」、こちらの記事で「第Ⅳ章:除去土壌の減容及び再生利用」、こちらの記事で「第Ⅴ章:除去土壌及び廃棄物の最終処分」に関する詳細な評価についてそれぞれ解説しました。

今回は、その続きとして、最終報告書の「第Ⅵ章:国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」について説明したいと思います。

つまり、今回は、

・ 除去土壌の再生利用等に関するIAEAの最終報告書に書かれた「国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」って何?
・ IAEA最終報告書は「国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」についてどんな評価をしたの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その6)
  2. IAEA最終報告書に書かれた「国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」とは
  3. IAEA最終報告書「第Ⅵ章:国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」に書かれた評価
    • セクションⅥ.1 国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与に関する全般的な取組
    • セクションⅥ.2 全国的な理解醸成の推進
    • セクションⅥ.3 地域の社会的受容の推進
  4. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その6)

それでは早速、最終報告書の「第Ⅵ章:国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」に書かれた内容について見ていきましょう。

IAEA最終報告書に書かれた「国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」とは


ここで対象としている「国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」は、こちらの記事でも解説しましたが、除去土壌の再生利用や、2045年3月までに福島県外で完了しなければならない最終処分に必須となる、ステークホルダーへの情報発信や、ステークホルダーの参画の促進等を通じた、事業への理解醸成に必要となる事項のことです。

IAEA最終報告書「第Ⅵ章:国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」に書かれた評価

以下で、各評価項目について解説していきますが、説明のための利便性の観点から、各評価項目についてアルファベット(a, b, c…)を付しています(実際の報告書には書かれていません)。

セクションⅥ.1 国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与に関する全般的な取組

a. 環境省は、第1回専門家会合以降、国民とステークホルダーの関与の分野で顕著な進展を見せており、事業の進展に伴い、引き続きその取組を発展させ、改善していくべきである。

再生利用や最終処分に関する国民とステークホルダーの関与の重要性については、当初から認識されており、3回の専門家会合全てで主要な議題になっていました。

議論を重ね、専門家チームのアドバイスも踏まえ、第1回会合(2023年5月)から第3回会合(2024年2月)の間に環境省が進めてきた取組についても、一定の前向きな評価がされたものと思われます。

b. 再生利用と最終処分に関する日本の取組について、環境省が積極的に情報発信していることは高く評価できる。環境省と事業の長期的な安全性への信頼と信用を維持するためにも、継続する必要がある。

再生利用や最終処分の事業に関する情報発信の取組については、こちらの記事でも解説しましたが、こうした取組内容について高い評価が得られており、継続していくことが求められています。

c. 除去土壌の再生利用のため先進的な取組から得られた知見は、他国が参考とするための有益なケーススタディとして利用することができる。[環境省と]IAEAとの協力も含め、国際的なフォーラム、出版物、メディアを通じた国際社会への発信が奨励される。

これだけ大量の除去土壌の再生利用を含めた環境回復事業は世界でも類を見ない取組であり、万が一類似の事故が発生した場合に、良い点、教訓とすべき点も含め、他国が参考とすべき有益なケーススタディになると思います。

専門家会合の実施を通じて構築されたIAEAとのチャンネルを活用した加盟国との共有、国際会議やシンポジウムでの発表、IAEA安全基準を含めた各種文書へのインプット、SNSを活用した情報発信などが想定されているものと考えられます。

d. 公平性と透明性を考慮しつつ、JESCO法で定められた厳しいスケジュールを守るため、2025年度以降、環境省が最終処分場の特定・選定作業を加速させることが期待される。ステークホルダー参画プログラムの時期と実施への影響を理解し、対処する必要がある。

ここで言う「JESCO法で定められた厳しいスケジュール」というのは、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法第3条第2項に定められたスケジュール(中間貯蔵開始後三十年以内(=2045年3月まで)に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる)のことです。

このスケジュールの順守のためには、再生利用と同時に、最終処分施設の選定プロセスも進めていく必要があります。

2024年度末が中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略の成果の取りまとめ時期でしたが、そこから期限である2045年3月まではちょうど20年という年月でもありました。

事業の内容や規模、ステークホルダーの参画に必要な時間を考慮すると、これは十分に余裕がある時間とは言えず、2025年度以降その取組を加速させていくことが求められています。

セクションⅥ.2 全国的な理解醸成の推進

e. 東日本大震災・原子力災害伝承館は、国民の理解醸成のための一つの優良事例であり、他の同様の広報センターも役立つだろう。

最終報告書によると、第1回専門家会合の期間中、専門家チームは東日本大震災・原子力災害伝承館を訪問して、高村昇館長から説明を受けています。

展示や説明の内容によほど感銘を受けたのか、第1回及び第2回のサマリーレポートのほか、この最終報告書でもその活用が推奨されています。

f. 可能性のある最終処分の選択肢に関し、環境省が様々な選択肢間の結果とトレードオフ(例:低放射能・多量の処分と高放射能・少量の[処分の]選択肢との関係)を、国民と主要なステークホルダーに明確にすることが重要である。

こちらの記事でも解説しましたが、濃縮作業により、減容が進むと、処分すべき土壌や廃棄物の量は減りますが、同時に、その放射能濃度が増加するため、濃度によってはさらに高度な放射線防護体制が必要になる可能性があります。

これは一例ですが、全ての点において他の手法よりも優れた完璧な手法というのは存在せず、常にそうしたトレードオフの関係が存在することを国民や関連するステークホルダーにしっかりと伝えることの重要性が強調されています。

g. 全てのコミュニケーションで、再生利用される土壌と最終処分される土壌との違いを明確に示すべきである。更に、再生利用は福島県内外で実施できる一方、JESCO法に規定されているとおり、再生利用に適さない物の最終処分は福島県外でのみ実施されなければならないことを丁寧に伝える必要がある。

同じ除去土壌でも、再生利用されるものと、最終処分されるものとの違い(例:放射能濃度)を明確に説明すべき、という指摘かと思います。

また、福島県民への過大な負担も考慮して、最終処分については福島県外で実施されることになったことを、その経緯や意義も含めて国民に丁寧に伝える必要があることが述べられています。

h. コミュニケーション全体を通じて一貫かつ慎重な単位の使用が、国民及びステークホルダーの放射線安全に対する理解にとって重要である。これにより、提案されている安全対策の相対的な影響について理解を深めることができる。

最終報告書の本文にもあまり触れられていないので、若干の唐突感はありますが、放射線による影響等を現す単位は多様で非常に複雑であることから、国民や主要なステークホルダーに分かりやすく説明することの重要性が指摘されているのだと思います。

最低限知っておきたい3つの単位についてはこちらの記事で、「シーベルト」という単位が持っている異なる5つの意味についてはこちらの記事で解説しているのでご参照ください。

i. 除去土壌及び廃棄物の再生利用と最終処分の提案に関連する潜在的な便益を伝えるには、金銭面での検討だけでなく、復興や長期的な持続可能性への支援など、その他の要素も含めるべきである。

ここでは再生利用や最終処分の事業を受け入れる側にとってのインセンティブについて触れられています。

いわゆる「迷惑施設」の受入に当たっては、基金の創設や補助金の提供など、経済的な支援を行うことが良くありますが、それだけでなく、それに協力することで被災地の復興や持続可能な地域づくりへの支援になることなどについても丁寧に伝えることの重要性が述べられています。

経済的支援やインセンティブを否定するものでは全くありませんが、個人的にも、この事業の重要性を理解いただいた上で、その取組に協力いただける方が一人でも多くなることを期待したいと思いますし、現地見学会等の機会を利用して、一人でも多くの方に中間貯蔵施設や長泥など、現地に足を運んでいただければと思います。

j. 花き栽培を含む鉢植えのような取組は、除去土壌の安全性を日々身近に感じてもらうためのコミュニケーションツールとして有用である。このような取組の拡大は、除去土壌の再生利用への全国的な国民の受容性を高める一助とするために検討されるべきである。

除去土壌を活用した鉢植えについては、こちらの記事でも紹介しましたが、環境省本省だけでなく、首相官邸、地方環境事務所、他省庁にも設置されています。

周辺の空間線量率も継続的に計測し、設置前後で変化がないことが確認されていますが、こうしたごく小規模の取組でも、除去土壌の安全性を身近に感じてもらうためには有効であり、よりその規模を拡大することに意義があるとされています。

セクションⅥ.3 地域の社会的受容の推進

k. 専門家チームは、再生利用と最終処分のための、地域のステークホルダーとのコミュニケーションや、地域共栄の方法について議論する新しいワーキンググループの設置により、ステークホルダーの関与が進捗していることを歓迎する。

ここで言う「新しいワーキンググループ」とは、こちらのウェブサイトにある様々な検討会等のうち、「中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用及び最終処分に係る地域の社会的受容性の確保方策等検討ワーキンググループ(地域WG)」のことです。

ここでは、2045年3月までの最終処分完了に向けて、再生利用や最終処分の事業の各段階における、地域のステークホルダーとのコミュニケーションや地域共生のあり方について議論されることとなっており、2024年1月(第2回専門家会合と第3回専門家会合の間)に第1回会合が開催されています。

こうした動きも踏まえ、ステークホルダーの関与に関する取組が進捗している、と評価されているのだと思います。

l. 環境省には、国民とステークホルダーの関与に関する戦略のマスタープランを引き続き策定することが期待される。最終処分に関するコミュニケーションと関与の方法は、除去土壌の再生利用とは異なる可能性がある。

リスクコミュニケーションに関する国全体の戦略としては復興庁がとりまとめた「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」がありますが、これは、震災後に被災地が受けてきた科学的根拠のない風評被害の払拭を主な目的としたものだと思います。

再生利用や最終処分事業に関するステークホルダーとのコミュニケーションについては、こちらのウェブサイトにあるコミュニケーション推進チームや地域WGで議論されていますが、明確にマスタープランとしてまとめられたものはないように見えます。

今後、2045年3月までの最終処分完了に向けて、取組を加速化していくことが求められる中で、方向性を示す基本的な計画の策定が求められているのだと思います。

m. 環境省には、最終処分地選定に関する主要な「道筋」を明らかにし、国や事業体からの提案か、地方自治体や都道府県との連携か、どちらのルートを取るつもりなのかを説明することが期待される。これによって、パートナーシップの取り決めのメリットやデメリットを説明し、明確にすることができる。提案内容の長期的な安全性に対する国民の信頼を得るためには、主要なステークホルダーや地域社会との関わりが不可欠である。

こちらの記事の「c.」のポイントとも関連する気がしますが、最終処分に関する道筋(総合的な戦略及びスケジュール)を示し、その中で、最終処分施設の選定に関する具体的なアプローチも示すべき、という指摘かと思います。

個人的には、最終処分地の選定に当たっては、この2つ(国や事業体からの提案か、地方自治体や都道府県との連携か)のいずれか、というよりも、この2つの手法を効果的に組み合わせることが重要かと思います。

いずれにせよ、ここに書かれているように、主要なステークホルダーや地域社会との関わりはこの事業にとって不可欠であり、下の「n.」のポイントにも書かれているように、早期からステークホルダーの参画を促す仕組みを作ることが求められるかと思います。

n. 再生利用や最終処分の選択肢を検討する際には、早い段階からの、ステークホルダーの関与が重要である。環境省には、地域社会との対話を繰り返し、維持し、強化していくことが期待される。このような早い段階からの関与は効果的な情報発信の方法であり、環境省には、再生利用や福島県外での最終処分の選択肢に関する次の段階でも、このような早い[段階からの]機会を模索することが奨励される。

最後に、ステークホルダーの早い段階からの関与の重要性が強調されています。

福島第一原子力発電所の事故後の復興事業でも、その他のいわゆる「迷惑施設」の設置に関する事業であっても、一方的にその施設設置場所を決定し、通知するような方法は、あまり良い結果に繋がっていないような気がします。

もちろんどのような方法を取っても、全てのステークホルダーを満足させることは難しいですが、重要なことは、ステークホルダーが必要な情報をタイムリーに共有できる情報環境が整備され、また、意思決定者と関連するステークホルダーが双方向に対話でき、そして意思決定プロセスにステークホルダーが参画する仕組が構築されていることかと思います。

こうした環境や仕組が早期に構築されることが事業を成功に導く可能性を高めるのではないかと思います。

まとめ

今回は、除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書に関して、「第Ⅵ章:国民とのコミュニケーション及びステークホルダーの関与」に書かれた結論の内容について解説しました。

再生利用及び最終処分の事業について、その事業の進捗や情報発信の取組について前向きな評価が得られたことは、事業を進める上での方向性が正しいものであったことを示していると思います。

一方で、ステークホルダーの参画については、早期にその仕組を構築することが求められており、2045年3月という時限付きの事業を成功裏に収めるためにも、その取組を一層加速させていく必要があると考えられます。

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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