(その活動などについて解説)ICRPについて(その2)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

前回の続きとして、放射線防護に関する国際的なルールづくりに主導的な役割を果たしているICRPについて解説したいと思いますが、

今回は、

・ICRPの具体的な活動は?
・ICRPはどのような組織で、どのような運営体制なの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. (その活動などについて解説)ICRPについて(その2)
  2. 具体的な活動内容
  3. 組織
  4. 運営体制
  5. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(その活動などについて解説)ICRPについて(その2)

前回の記事では、主にICRPの設立までの歴史について解説しましたが、今回の記事では、その具体的な活動内容、組織、そして運営体制について説明したいと思います。

具体的な活動内容

まず、ICRPは何のために活動しているのでしょうか。

その主な目的は、放射線防護の理念や原則、そして管理基準などに関する勧告や報告書の公表などを通じて、国際機関や各国の政府に対して、助言を行うことです。

あくまで助言であって、国際機関や各国の政府に対して強制力を持つものではありませんが、後述するように、その助言内容は、国際機関や各国政府の政策にも大きな影響を及ぼしています。

具体的には、上の図に示すように、まず、各国の研究者などが公表する報告書や論文などを基に、UNSCEAR (United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)(「アンスケア」と呼ばれることが多いです)が、科学的、中立的な立場から、放射線の影響などを評価し、国連総会の場などにおいて報告を行います(参照:UNSCEARウェブサイト)。

ICRPは、UNSCEARの報告書などを科学的根拠としつつ、また、放射線に対する社会の価値判断の動向や、過去の経験なども考慮して、放射線防護の枠組に関する勧告などを行います。

また、IAEA (International Atomic Energy Agency)(国際原子力機関)(そのまま「アイエーイーエー」と呼ばれます)は、ICRPの勧告などを基に、加盟国との合意形成を図りながら、安全基準や、その他の技術的報告書を公表しています。

先ほども述べたように、こうしたICRPの勧告や、IAEAの安全基準は、各国政府の放射線防護の法令や制度設計にも大きな影響を及ぼしています。

2011年の福島第一原子力発電所の事故の際にも、避難指示や、一般公衆の被ばく線量に関する長期的な目標の設定にあたっても、これまでの勧告や安全基準が参考にされています。

組織

このように、ICRPは、国連の機関などとも連携しながら、世界各国の放射線防護のあり方に大きな影響を与えるような組織ですが、自身は多くの加盟国がいるような国際機関ではありません。

ICRPはイギリスのNPO(Non-Profitable Organization:非営利団体)として登録されている学術組織です。

現在の事務局はカナダのオタワにあって、ICRP専属の職員は5名程度しかいません(参考:ICRPウェブサイト)。

過去には、別の国に事務局を設置していたこともあり、ホスト国の状況に応じてその設置場所を変えています。

運営体制

そのような少人数の体制でどのように大規模な会議を開催したり、たくさんの報告書を作成したりしているのでしょうか。

ちなみに、前述したIAEAでは2000人以上の職員が勤務しています。

まず運営資金については、ICRPが発行する出版物の印税もありますが、そのほとんどが各国政府や企業からの寄付でまかなわれています。

もちろん、寄付についても、ICRPの独立性の尊重や、その活動や委員の選任に介入しないことが条件となっています。

次に、会議運営については、世界の30以上の国から250人以上の専門家が参画して、以下に述べる委員会で議論し、報告書の作成などを行っています。

具体的には、一つの主委員会と、その下に位置付けられる専門委員会、そして、各専門委員会ごとに、その下に位置付けられ、課題ごとに設定される数多くのタスクグループから構成されています。

専門委員会については、現在は以下の4つの委員会が設置されています。

・第1委員会:放射線による影響
・第2委員会:被ばく線量
・第3委員会:医療分野における防護
・第4委員会:委員会勧告の適用

少し前までは第5委員会(環境の防護)という委員会もありましたが、現時点ではありません。

それぞれの委員会の更に下に位置付けられるタスクグループは、本日(2022年11月19日)時点では、127番目のタスクグループが立ち上げられています(127個のタスクグループ全てが活動しているわけではなく、既に活動を終えているものも沢山あります)。

タスクグループで議論した内容については、所属する専門委員会、そして主委員会で承認された後、勧告などとして公表されています。

こうした勧告のうち、詳細な基準値というよりは、特に放射線の防護のあり方などに影響を及ぼすような、基本的な考え方に特に着目した勧告は「主勧告」と呼ばれ、これまで、1958年、1962年、1965年、1977年、1990年、そして2007年の6回発表されています。

その主勧告がもたらしてきた、放射線防護の変遷については、こちらの記事で解説しています。

まとめ

前回の記事では、ICRP設立までの歴史について振り返りましたが、今回は、ICRPの具体的な活動、組織や運営の体制について解説しました。

ICRPは放射線防護の理念や原則、管理基準などに関する勧告を出し、各国の政府や国際機関に助言を行うことを主な目的としていますが、非常に小規模なNPOで、世界各国の寄付や、専門家の人的支援を受けながら運営されている組織、といったお話をしました。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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