(勧告に関する5つのポイントとは)ICRPについて(その3)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

前回の続きとして、放射線防護に関する国際的なルールづくりに主導的な役割を果たしているICRPについて解説したいと思いますが、

今回は、

・ICRPの勧告によって、放射線防護の考え方はどのように変わってきたの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. (勧告に関する5つのポイントとは)ICRPについて(その3)
    • 放射線防護の対象の拡大
    • 放射線被ばくによる影響
    • 被ばく状況
    • 線量限度や最適化の導入
    • 人以外の放射線防護
  2. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(勧告に関する5つのポイントとは)ICRPについて(その3)

ここまでは、こちらの記事こちらの記事において、ICRPの設立までの歴史、その具体的な活動内容、組織や運営の体制について解説してきました。

本記事では、ICRPの重要な活動の一つである、勧告がこれまでにもたらしてきた、放射線防護に関する考え方の変遷について、以下の5つのポイントに絞って解説していきたいと思います。

放射線防護の対象の拡大

こちらの記事でも解説しましたが、ICRPの前身の組織であるIXRPCが設立された当時、放射線防護の対象として想定されていたのは主に医療従事者でした。

その後、こちらの記事でも解説したように、放射線の利用が医療分野にとどまらず、他の分野(現在では農業分野、工業分野、考古学や芸術の分野)に拡大し、同時に、放射線防護の対象とすべき労働者の種類も増えていきました。

更には、1950年代から1960年代にかけて、世界各地で行われた大気圏核実験や、1986年のチョルノービリ原子力発電所の事故によって広範囲に拡散された放射性物質による環境汚染、また、日常生活の中でも、屋内におけるラドンの放射性同位体による被ばくなど、一般公衆に対する被ばくも十分に考慮されなければならない事案も発生し、また、科学的知見も明らかになっていきました。

放射線被ばくによる影響

次にこちらの記事などでも解説していますが、放射線被ばくによる影響の種類、具体的には確定的影響と確率的影響のお話です。

当初は、特に医療従事者に対する健康影響、中でも、比較的高線量の被ばくをした際に生じ得る、急性放射線症候群のような、しきい値がある確定的影響に関する放射線防護が検討の対象でした。

その後、放射線による健康影響に関する知見が徐々に蓄積されていく中で、放射線被ばくががんなどの発生に影響を及ぼしている可能性が明らかになってきたことを踏まえ、しきい値はないとの仮定のもとで放射線防護を考える、確率的影響についても検討の対象とされるようになりました。

被ばく状況

こちらの記事などで解説していますが、被ばく状況については、以下の3つの分類があります。

・ 計画被ばく状況(例:原子力発電所の管理に伴う被ばく、研究室における放射性物質を使用した実験に伴う被ばく)
・ 緊急時被ばく状況(例:原子力発電所の事故への対応に伴う被ばく)
・ 現存被ばく状況(例:原子力発電所の事故後の復旧期における対応に伴う被ばく、宇宙線からの被ばく、屋内のラドンの放射性同位体から放出される放射線への被ばく)

当初は、上述したように、医療従事者や研究者などが放射線防護の対象の中心で、被ばく状況についても、計画的に導入された線源から放出される放射線に対する防護、つまり、計画被ばく状況(当初は、被ばく状況の分類に関する考え方がなかったので、「結果として計画被ばく状況」だった)における放射線防護が検討の中心でした。

その後、被ばく状況という概念が導入され、上述した3つの被ばく状況、それぞれに応じた放射線防護の体系が検討されていくこととなりました。

被ばく状況の詳細については、こちらの記事こちらの記事もご参照ください。

線量限度や最適化の導入


当初は、放射線防護に関する技術的助言を提供することがICRPの活動の中心でしたが、人々への放射線による被ばくをより適切に管理し、低減させていくため、計画被ばく状況において、一般公衆への被ばくや職業被ばくに関して、線量限度が導入されました。

更には、合理的に達成できる限りにおいて、被ばく線量を極力低減させる、という最適化の原則が導入され、計画被ばく状況において、被ばく線量がこの線量限度よりも既に低い線量であっても、最適化の原則に基づき、合理的に達成できる限りにおいて、被ばく線量を極力低減させるための線量拘束値、という概念が導入されました。

線量限度や最適化の考え方についてはこちらの記事もご参照ください。

また、この最適化の原則は、計画被ばく状況だけでなく、緊急時被ばく状況や現存被ばく状況においても適用され、公衆被ばくについて、被ばく線量が多い人から優先的に、避難や除染などの対策を講じ、合理的に達成できる限りにおいて、全体の被ばく線量を段階的に低減させていくための目安として、参考レベル、という概念が導入されました。

参考レベルについては、こちらの記事もご参照ください。

人以外の放射線防護


最後に、人以外、具体的には動植物に対する放射線防護です。

当初は、放射線防護の対象はあくまでも人でしたが、その後、「環境(the environment)」に存在する動植物も放射線防護の対象とする、という概念が生まれました。

しかし、当初は、「人が放射線による影響から適切に守られていれば、動植物も同時に守られる(だからしっかり人の放射線防護を考えていこう)」という考え方でした。

その後、動植物も、人と同様に、放射線から適切に防護される対象として個別に考慮すべき、という考え方になり、その種類ごとに、放射線防護のあり方がより詳細に検討されてきています。

まとめ

今日は、ICRPの主勧告が、これまでの放射線防護のあり方にもたらしてきた影響を、5つのポイントに絞って解説しました。

2028年には、ICRPはその前身であるIXRPCの創設から100周年を迎えることになります。

現在、そのあたりで、新たな主勧告を公表するためのプロセスが進んでいます。

今後の活動にも注目していきたいと思います。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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