放射線被ばくによる健康影響について(その1)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今日は、

・放射線被ばくによる人体の健康への影響はどのように分類できるの?
・「確定的影響」「確率的影響」とは?
・確定的影響が現れるメカニズムとは?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 放射線被ばくによる健康影響について(その1)
  2. 放射線被ばくによる健康影響の分類の考え方
  3. 「確定的影響」「確率的影響」とは?
    • 確定的影響
    • 確率的影響
  4. 確定的影響が現れるメカニズム
    • しきい線量とは
  5. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

放射線被ばくによる健康影響について(その1)

まず、放射線被ばくによる健康影響の分類については、そもそもどのような考え方があるでしょうか。

最初にそれから考えてみたいと思います。

放射線被ばくによる健康影響の分類の考え方

放射線被ばくによる健康影響の分類には、幾つかの考え方があります。

例えば、

・影響が及ぶ主体に着目した分類(被ばくした本人か、子や孫の世代への影響か)
・影響が現れるまでの時間に着目した分類(被ばくした本人にすぐに現れる影響か、時間が一定程度経過した後に現れる影響か)
・影響が現れるメカニズムに着目した分類

などがあります。

今回は、これらの分類を全て取り入れつつも、3つ目の、「影響が現れるメカニズム」に着目して話を進めていこうと思います。

「確定的影響」「確率的影響」とは?

放射線被ばくによる健康影響を、「影響が現れるメカニズム」に着目して分類した場合、大きくは「確定的影響」と「確率的影響」に分けて考えることができます。

それぞれについて、以下のパートでもう少し詳しく説明してみたいと思います。

確定的影響

確定的影響は、比較的多くの放射線を、短時間に被ばくした場合に起こり得る影響で、上の図に示したように、被ばくした本人に起こり得る影響としては、急性障害があり、急性放射線症候群と呼ばれる、比較的放射線に対する感受性が高い、骨髄や胃腸管における障害や、中枢神経への障害が起こることがあります。

また、被ばくする箇所によっては、皮膚紅斑、脱毛、不妊(一時的または永久)などの影響が起こることもあります。

また、被ばくした女性が妊娠等している場合、胎児性障害と呼ばれる、胚や胎児への障害、精神遅滞などが起こる可能性があります。

また、時間が少し経過した後の「晩発障害」と、呼ばれる影響として、白内障や緑内障などが起こることもあります。

確率的影響

では、確率的影響としては、具体的にどのような例があるのでしょうか。

まず、被ばくした本人に対しては、白血病やがんが影響として現れたり、本人以外の次世代への影響として、遺伝的障害が起こる確率が上がる可能性もあります。

確定的影響が現れるメカニズム

それでは、次に、確定的影響と、確率的影響が起こる具体的なメカニズムについて解説していきたいと思います。

まずは、確定的影響です。

上の図に、その概要を示しましたが、人間の全ての細胞には、遺伝子情報を持ったDNAがあり、その一部のDNAは、放射線を被ばくすると、傷がつくことがあります。

しかし、この傷は、体に本来備わっているシステムにより修復されます。

ただ、全てのDNAが完全に元通りに修復されるわけではなく、一部のDNAは、誤って修復されたり、死んでしまうこともありますが、被ばく線量が小さく、その数が少ない場合には、特に人体の機能には影響がありません。

次に、被ばく線量が大きくなると、当然、それに伴って影響を受ける細胞の数も多くなり、一部の細胞は修復されますが、被ばく線量が小さい場合と比べると、完全に修復されなかったり、死んでしまう細胞の数も増えます。

それでも、一定程度の正常な細胞が残っていれば、一時的な機能の喪失はあっても、時間が経過すれば、やがて回復します。

しかし、更に被ばく線量が増加し、ある一定以上の被ばく線量になると、大量の細胞が死んだり、細胞が変性することにより、臓器や組織の機能が完全に喪失してしまったり、形態に異常が生じるなどの事象により、人体に深刻な影響が生じる可能性もあります。

こうしたメカニズムによって現れる影響のことを、「確定的影響」と言い、この影響が現れるか、現れないかの目安となる線量のことを、しきい値(またはしきい線量)と言います。

これは言い換えると、しきい線量以下の線量を被ばくしても、確定的影響は現れない、ということになります。

しきい線量とは

先ほども説明したように、しきい線量は、確定的影響が現れるか、現れないかの目安となる線量のことですが、この概念をグラフで表すと、上の図のようになります。

しきい値よりも少ない放射線量を被ばくしても、確定的影響は現れませんが、しきい値以上の放射線量を被ばくすると、徐々にその確定的影響が現れる頻度が上昇していきます。

あくまで頻度が上昇するだけであって、しきい値以上の被ばくをした人全員に確定的影響が現れるわけではない、という点に留意しましょう。

なお、ICRPでは、同じ線量を多数の人が被ばくした際に、全体の1%の人に症状が現れる線量を、しきい線量、としています。

まとめ

今回は、放射線被ばくによる健康影響について、まずは、その影響の分類にはいくつかの方法があることを説明した後、その内、影響が現れるメカニズムの違いに着目した分類として、「確定的影響」と「確率的影響」を紹介しました。

この内、確定的影響については、比較的短時間に多くの放射線を被ばくした際に起こり得る影響であること、そして、その具体的な症状、メカニズムについて説明しました。

そして、最後に、確定的影響に特徴的な、しきい値(線量)の概念について説明しました。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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