こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
今日は、前回までの続きとして、確率的影響に関して、
・確率的影響が現れるメカニズムは?
・確率的影響の特徴は?
・放射線被ばくとがんのリスクとの関係は?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- 放射線被ばくによる健康影響について(その3)
- 確率的影響が現れるメカニズム
- 確率的影響の特徴
- 放射線被ばくとがんのリスクとの関係
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
放射線被ばくによる健康影響について(その3)
ここまでの記事(放射線被ばくによる健康影響について(その1))及び(放射線被ばくによる健康影響について(その2))では、放射線被ばくによる健康影響について、確定的影響と確率的影響の概要、そして、特に確定的影響に着目して、人体の組織や臓器ごとの、放射線への感受性や、しきい値(線量)の違いについて解説してきました。
この記事では、次に、確率的影響に着目して、確定的影響の時と同様に、その影響が現れるメカニズムについて説明した後、特に確定的影響との違いに着目した、確率的影響の特徴、そして、放射線被ばくと発がんやがんによる死亡リスクとの関係性について説明したいと思います。
確率的影響が現れるメカニズム
確率的影響が現れるメカニズムを、以下の図にまとめてみました。
正常な細胞に対する放射線被ばくにより、細胞内にある、遺伝情報を持っているDNAに傷がつくことがありますが、この傷は、こちらの記事でも解説したように、体に本来備わっているシステムにより修復されたり、傷ついたDNAを含む細胞そのものが排除されることにより、その機能が正常に維持されています。
しかし、放射線による被ばく量が増加すると、こちらの記事で説明したように、確定的影響として現れることもありますが、一部の細胞は、不完全な状態に修復されることにより、これが突然変異などで、がん細胞になって、さらに増殖すると、がん、白血病、遺伝性の障害などとして現れることがあり、こうした影響が「確率的影響」と呼ばれます。
確率的影響の特徴
次に、特に確定的影響と比較した場合の、確率的影響の特徴を以下の図にまとめてみました。
確率的影響の大きな特徴の一つとして、確率的影響にはあるような、しきい値がない、とするのが特徴です。
なお、確率的影響の場合、追加的な放射線被ばくがなくても、がんや白血病にかかったり、遺伝的障害が発生しますが、これは自然発生率、と呼ばれることがあります。
そして、およそ100〜200mSvを下回るような被ばく線量では、放射線による影響を、たばこや、食事など、がんの発生を引き起こす、他の要因と明確に区別することが困難になってきます。
ICRPでは、こうした、比較的低い被ばく線量においても、被ばく線量と、影響が現れる頻度との間には、直線的な比例関係があると仮定して、放射線防護の体系や基準を設定することとしています。
こうした放射線の防護体系を考える際には、広島や長崎における原爆の被爆者集団に対する疫学調査の結果が用いられてきました。
放射線被ばくとがんのリスクとの関係
主に、広島や長崎における原爆被爆者に対する健康調査のこれまでの結果から、比較的高い線量への放射線被ばくにより、がんへの罹患や、がんによる死亡リスクが高まることが知られています。
具体的には、がん罹患に関しては、約100mSv、がんによる死亡に関しては、約200mSv以上の被ばく線量で、被ばく線量と、がんに関するこれらのリスクとの間に直線的な相関関係が確認されています。
しかし、これらの被ばく線量以下については、依然として議論が分かれているところであり、先ほども説明した通り、現在では、こうした比較的低い線量域においても、こうした直線性があると仮定して、放射線の防護体系を考えることとしています。
この解釈を、具体的な人数で表すと、以下の図のようになります。
現在、日本人の死因の第1位はがんであり、追加的な放射線による被ばくがない状況でも、約30%の人ががんが原因でなくなっています。
ICRPでは、100mSvの被ばくで、がん死亡率が0.5%上昇するとして、放射線防護を考えることとしています。
仮に、被ばく線量とがん死亡リスクとの間に直線性を仮定すると、200mSvの被ばくでは1%の上昇、300mSvの被ばくでは1.5%の上昇、という計算になります。
これを具体的な人数に置き換えてみると、以下の図のようになります。
仮に1000人の日本人の集団がいたとすると、
追加的な放射線の被ばくがなくても、約300人の人ががんで亡くなります。
仮に、この1000人全員が100mSvの被ばくをしたとすると、理論上は、がんで死亡する人は305人になり、200mSvの被ばくで310人ががんで死亡、300mSvの被ばくで315人が死亡、という計算になります。
この、「100mSvあたり0.5%」という数字をもう少し分かりやすく理解するために、1mSvや100mSvという被ばく線量がどの程度の大きさなのか、という点について、次の記事で解説したいと思います。
まとめ
今回は、確率的影響について、それが現れるメカニズムと、特に確定的影響との違いに着目したその特徴、そして、被ばく量とがんの罹患やがんによる死亡リスクとの関係について解説しました。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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