放射線の種類とその性質について(その2)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今日は、

・アルファ線、ベータ線、ガンマ線の電離の方法や質量、電荷はどのように違うの?
・3つの放射線の透過力やエネルギーはどのように違うの(特にアルファ線に着目して)?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 放射線の種類とその性質について(その2)
  2. アルファ線、ベータ線、ガンマ線の性質の違い
    • 電離の方法
    • 質量及び電荷
  3. アルファ線の透過力やエネルギーについて
  4. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

放射線の種類とその性質について(その2)

前回の記事では、放射線の種類についておさらいし、その中で特に本ブログの対象としている、原子力発電所の事故など、不測の事態が発生した後の環境汚染への対応に考慮すべき3つの種類の放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)について解説しました。

アルファ線、ベータ線、ガンマ線の性質の違い

アルファ線、ベータ線、ガンマ線の種類(粒子線または電磁波)や構造については前回の記事で解説しましたが、それ以外の性質についても、3つの放射線は大きく異なっています。

その具体歴な例を以下の章で見ていきましょう。

電離の方法


「電離」とは、こちらの記事で詳しく解説していますが、簡単に言うと、「原子核における軌道電子を弾き出す現象」のことです。

電離放射線(電離作用を持つ放射線)によるこの電離作用が、放射線被ばくにより引き起こされることがある、健康影響の要因となる現象なのですが、この電離の発生の仕方も大きく2つに分類することができます。

直接電離

直接電離とは、その名の通り、電離放射線が直接、軌道上の電子を弾き出す現象のことです。

今回着目する、アルファ線、ベータ線、ガンマ線のうち、自らが電荷を有しているアルファ線とベータ線が、上の図にも示したように、この直接電離により電子を弾き出します。

間接電離

間接電離とは、こちらもその名が示しているように、放射線が自ら直接電離させるのではなく、一度他の物質との相互作用により発生させた二次電子により、他の原子を電離させる、という現象のことです。

アルファ線、ベータ線、ガンマ線のうち、自らは電荷を有していないガンマ線が、上の図にも示したように、他の物質との相互作用による間接電離により、電子を弾き出します。

質量及び電荷


アルファ粒子(線)、ベータ粒子(線)、ガンマ線の質量と電荷の違いを簡単にまとめたのが以下の表です。

まず、質量ですが、仮に、ベータ粒子の質量を1とすると、陽子2個及び中性子2個から構成されるアルファ粒子の質量はそのおよそ7,000倍にもなります。

次に、電荷ですが、ベータ粒子は、前回の記事でも解説したように、陽電子または電子なので、その電荷は1(陽電子)またはー1(電子)です。

一方、アルファ粒子は陽子を2個有しているので、その電荷は2です。

なお、ガンマ線は電磁波なので、質量や電荷はありません。

アルファ粒子(線)ベータ粒子(線)ガンマ線
質量7,000なし
電荷1または−1なし

アルファ線の透過力やエネルギーについて


それでは、これまでに説明した、各放射線の電離の仕方の違い、そして、質量や電荷の違いを踏まえて、各放射線の透過力について説明したいと思います。

今回は、特にアルファ線の透過力について説明したいと思います。

アルファ線は、同じ荷電粒子線であるベータ線と比較すると、質量が非常に大きいため、同程度のエネルギーを持つベータ線と比べると、その速度は遅くなります。

また、ベータ線と比べて大きな電荷を有していることもあり、放出されると、そのごく近くで他の原子核や電子と次々に反応しながら、直線的に進みます。

ただ、放出された地点から、多くの原子などと反応するため、すぐにエネルギーを失い、あまり遠くまでは到達できません。

また、アルファ線について知っておくべき重要なこととして、アルファ粒子(線)は、それぞれに固有のエネルギーを持っていて、そのエネルギーは、アルファ粒子を放出する放射性核種の種類によって変わる、ということです。

具体的には、アルファ核種は、それぞれが、一つ、または複数の線スペクトルを持つアルファ線を放出します。

放射性核種の例としては、トリウム232、ラジウム226、アメリシウム241などがあり、そのエネルギーは、それぞれ、3.8-4.0 (MeV)、4.6-4.8 (MeV)、5.4−5.5 (MeV)の中に一つ、または複数の線スペクトルのエネルギー分布を持っています。

アルファ線の主なエネルギー(MeV)主な用途
トリウム2323.8 - 4.0(天然の放射性物質)
ラジウム2264.6 - 4.8 時計の文字盤の夜光塗料(かつて)
アメリシウム2415.4 − 5.5厚さ計、煙感知器

まとめ

今日は、3つの種類の放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)について、電離の方法、質量、電荷の違いに触れ、それらの違いを踏まえて、特にアルファ線の透過力、そして各アルファ線が持っているエネルギーについて説明しました。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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