放射線の種類とその性質について(その3)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

今日は、

・3つの放射線の透過力やエネルギーはどのように違うの(特にベータ線とガンマ線に着目して)?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 放射線の種類とその性質について(その3)
  2. 放射線の透過力やエネルギーについて
    • ベータ線
    • ガンマ線
  3. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

放射線の種類とその性質について(その3)

前回の記事では、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の電離の方法、質量、電荷などの性質と、アルファ線の透過力やエネルギーについて解説しました。

今回は、その続きとして、残った2つの放射線(ベータ線及びガンマ線)の透過力やエネルギーについて解説したいと思います。

放射線の透過力やエネルギーについて

前回の記事では、アルファ線は、ベータ線と比べて質量や電荷が大きいことから、放出された地点の近傍で他の原子等と反応し、ベータ線と比較すると、遠くまで到達しないことをお話ししました。

それでは、残ったベータ線と、ガンマ線の透過力やエネルギーについて、以下の章で見ていきましょう。

ベータ線


ベータ粒子は、アルファ粒子と比べて、質量が非常に小さいため、同じくらいのエネルギーを持ったアルファ粒子と比べると、その速度はアルファ粒子よりも大きくなります。

ただし、衝突する相手(軌道電子)が、自分と同じくらいの大きさであるため、アルファ線のように直線的に進むことはなく、自分自身も弾かれることもあるため、進み方はジグザグになります。

また、アルファ粒子と比較して、電荷も小さいため、周辺の電子と反応する頻度も、アルファ粒子と比較すると少なくなり、遠くまで到達することになります。

しかし、それでも、周囲の電子などとの衝突の結果、やがて、エネルギーを失い、やがて止まってしまいます。

また、ベータ粒子についても、アルファ粒子と同様、それぞれが持っているエネルギーは様々であり、そのエネルギーは、そのベータ粒子を放出する放射性核種の種類によって決まっています。

ただし、そのエネルギーの分布は、線スペクトルを持つアルファ粒子とは異なり、それぞれの放射性核種に固有の、1つ、または複数のピークを持った山のような形の、連続スペクトルになります。

その具体的な事例を以下の表に示します。

ベータ線の主なエネルギー(MeV)主な用途
三重水素(トリチウム)0.0186生体試験用トレーサー、トリチウムライトなど
セシウム1370.514(原子力発電所の事故などの後に環境中で影響を及ぼす放射性核種の一つ)
ヨウ素1310.606甲状腺がんの治療、生体試験用トレーサーなど

放射性核種の例としては、三重水素(トリチウム)、セシウム137、ヨウ素131などがあります。

そのエネルギーは、三重水素(トリチウム)が放出するベータ線は、0.0186 (MeV)のエネルギーを有しています。

また、セシウム137が放出するベータ線のうち、主なものは、0.514 (MeV)のエネルギーを有しており、こちらの記事でも解説した、甲状腺がんの治療にも用いられる、ヨウ素131が放出するベータ線のうち、主なものは、それよりも更に少し大きな、0.606 (MeV)のエネルギーを有しています。

ガンマ線


ガンマ線は、電磁波で、光と同等程度の速度で空間を伝播します。

ガンマ線は、軌道電子に持っているエネルギーを与え、自らは消滅することもありますし、前回の記事で解説したように、間接電離を起こす過程で、他の物質との相互作用により発生した二次電子を発生させることもあり、自らは直線的でない動きをすることもあります。

また、質量や電荷がなく、他の物質との反応性がアルファ線やベータ線と比べて低いため、透過力が非常に大きく、空間を遠くまで伝播します。

ガンマ線についても、アルファ粒子やベータ粒子と同様、それぞれが持っているエネルギーは様々であり、それは、そのガンマ線を放出する放射性核種の種類によって決まっています。

そして、ガンマ線は、アルファ線と同様に、そのエネルギー分布は、ガンマ線を放出する放射性核種ごとに決まった、一つ、または複数の線スペクトルを示します。

その具体的な事例を以下の表に示します。

ガンマ線の主なエネルギー(MeV)主な用途
イリジウム1920.317, 0.468非破壊検査
セシウム1370.662(原子力発電所の事故などの後に環境中で影響を及ぼす放射性核種の一つ)
コバルト601.173, 1.332食品の殺虫、殺菌

具体的な放射性核種の例としては、イリジウム192、セシウム137、コバルト60などがあります。

そのエネルギーは、まず、非破壊検査などに用いられるイリジウム192が放出するガンマ線は、0.317 (MeV)や、0.468 (MeV)のエネルギーを有しています。

また、セシウム137は、先ほども説明したように、ベータ線を放出しますが、ベータ線を放出して、バリウム137になった後、主に、0.662(MeV)のエネルギーを持つガンマ線を放出します。

最後に、こちらの記事でも解説した、食品の殺菌や殺虫に用いられる、コバルト60が放出するガンマ線は、主に、1.173 (MeV)や、1.332 (MeV)というエネルギーを持ったガンマ線を放出します。

まとめ

今日は、特に前回の記事の続きとして、ベータ線とガンマ線に着目し、それぞれの透過力やエネルギーについて説明しました。

具体的には、ベータ線はアルファ線と比べると、透過力は強いですが、ガンマ線はそれよりも更に強い透過力を有しています。

また、エネルギー分布については、ベータ線はアルファ線やガンマ線が示す線スペクトルとは異なり、1つ、または複数のピークを持った連続スペクトルを示します。

アルファ線、ベータ線、ガンマ線のいずれについても、それを放出する放射性核種ごとに決まった、異なるエネルギーを有していることは、特に重要なポイントですので、覚えておきましょう。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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