こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
今日は、
・3つの放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)が人体に与える影響はどのように違うの?
・外部被ばくと内部被ばくとでは、留意すべき放射線が変わってくるの?
・3つの放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)はどのようにして遮蔽できるの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- 放射線の種類とその性質について(その4)
- 放射線が到達する距離
- 空気中
- 人体に当たった場合
- 各放射線が人体に与える影響の違い
- 外部被ばく
- 内部被ばく
- 各放射線の遮蔽体
- アルファ線
- ベータ線
- ガンマ線
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
放射線の種類とその性質について(その4)
前回までの記事(放射線の種類とその性質について(その1))(放射線の種類とその性質について(その2))(放射線の種類とその性質について(その3))では、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の基本的な性質(電離の方法、質量、電荷、エネルギー)と、それに関連した透過力の違いについて解説してきました。
今回は、特にこうした放射線の透過力の違いが人体に与える影響の違いや、被ばくの種類(外部被ばくと内部被ばく)と留意すべき放射線の関係、そして最後にそれぞれの放射線の遮蔽体について説明したいと思います。
放射線が到達する距離
さて、透過力の違いについては、既に説明してきましたが、各放射線は、具体的には、消滅するまでに、どの程度進むのでしょうか。
アルファ線についてはこちらの記事、ベータ線及びガンマ線についてはこちらの記事において説明しましたが、それぞれの放射線はそれを放出する放射性核種ごとに固有のエネルギーを持っており、細かい到達距離については、そのエネルギーによっても異なります。
ただ、やはり放射線の種類に大きく依存していますので、空気中と、人体に当たった場合とに分けて見てみましょう。
空気中
まずは、空気中です。
透過力は、基本的に「アルファ線<ベータ線<ガンマ線」となっていますが、
具合的には、
・アルファ線:数cm 程度
・ベータ線:数m 程度
・ガンマ線:数十〜数百m 程度
となっています。
人体に当たった場合
次に、人体に当たった場合については、多くの臓器や組織と反応しますので、当然、空気中と比較するとその到達距離は短くなります。
具体的には、
・アルファ線:数〜数十μm 程度
・ベータ線:数mm 程度
・ガンマ線:数cm〜 程度
となります。
なお、ガンマ線については、透過力が強いので、体を通り抜けて、更に遠くまで到達することもあります。
各放射線が人体に与える影響の違い
それでは、上で述べた透過力の差は、人体に与える影響に、どのような違いをもたらすのでしょうか。
外部被ばくと、内部被ばくに分けて見てみましょう。
なお、外部被ばく及び内部被ばくについては、こちらの記事をご覧ください。
外部被ばく
まず、アルファ線については、透過力が非常に弱く、人体の表面にある角質層(いわばタンパク質を蓄積して死んだ細胞の集まり。外部からの様々な刺激から体を保護している)で止まってしまい、その下の細胞には届くことはありません。
ベータ線については、エネルギーが低い場合については、アルファ線と同様、角質層で止まってしまうこともあります(ベータ線のエネルギーについては、前回の記事をご覧ください)。
ただし、エネルギーがある程度高い場合には、角質層を通過して、その下にある皮膚や皮下組織に届くこともありますし、被ばく量が多い場合には、やけどなどの影響を及ぼすこともあります。
ガンマ線については、透過力がアルファ線やベータ線と比較して透過力が非常に強く、人体の深部まで届くこともありますし、人体を通り抜けてしまうものもあります。
つまり、特に外部被ばくについては、エネルギーが高いベータ線やガンマ線からの被ばくに特に留意が必要、ということになります。
内部被ばく
それでは、内部被ばくの場合はどうでしょうか。
まず、アルファ線については、外部被ばくの場合とは異なり、放射線を遮蔽する効果がある角質層がありませんので、体内にある臓器は直接その影響を受けることになります。
アルファ線の透過力は他の放射線と比較して弱いため、その影響が及ぶ範囲は非常に限定的ですが、その場所においては、ベータ線やガンマ線よりも、人体に大きな影響を及ぼすことになります。
放射線ごとの影響の違いについては、こちらの記事もご覧ください。
ベータ線についても、当然、アルファ線と同様、内部被ばくの場合は臓器に直接影響を及ぼすことになります。
透過力がアルファ線よりも大きいため、その影響の範囲は大きくなりますが、影響の程度は小さくなります。
ガンマ線についても、アルファ線やベータ線と同様に、体内の臓器に直接影響を及ぼすことになります。
その影響の程度は、アルファ線よりも小さくなりますが、影響の範囲は全身に及びます。
また、透過力が強いので、体の内部から外部へと、通り抜けてしまうものもあります。
つまり、内部被ばくについては、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の全ての種類の放射線に対して留意する必要がある、ということになります。
もちろん、こちらの記事でも解説しているとおり、影響の程度は、被ばく量などによって変わってきます。
各放射線の遮蔽体
最後に、放射線の透過力の違いを分かりやすく説明するために、各放射線に対する様々な遮蔽体が例として取り上げられることがあるので、参考までに紹介しておきます。
アルファ線
アルファ線は、これまでも説明してきたように、透過力がベータ線やガンマ線と比べて非常に小さく、紙一枚で十分に止めることができます。
ベータ線
一方、ベータ線は透過力がアルファ線よりも大きく、一枚の紙は透過することができますが、数mmから数cm程度のプラスチックやアルミニウムの薄い板で止めることができます。
ガンマ線
最後に、ガンマ線は、3つの放射線の中では透過力が非常に大きいため、紙や、薄いプラスチックや金属板は通過しますが、鉛や厚い鉄の板で遮ることで、そのエネルギーを弱めたり、場合によっては消滅させることもできます。
特にガンマ線については、透過力が強いため、遮蔽体の材質に加えて、適切な厚みなども考慮する必要があることも付け加えておきます。
まとめ
今回は、各放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)について、空気中及び人体に当たった場合の到達距離についてお話しし、外部被ばく及び内部被ばくについて、留意すべき放射線の種類について説明しました。
そして、最後に、各放射線を遮蔽するための遮蔽体の種類について簡単に説明しました。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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