写真出典:除染アーカイブサイト
こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
除染事業においては、作業で発生した土や廃棄物(主に葉や枝などの有機物)(土や廃棄物を合わせて、以下では「除去土壌等」とします。)を、次の工程までの間、一時的に仮置場に保管しておく場合があります。
今回は、その仮置場について、
・除染事業で使っている仮置場の構造はどのようになっているの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (基本的な構造について解説)仮置場の管理について(その1)
- 仮置場の基本的な構造
- 柵など
- 看板
- 排水溝など
- 保管容器
- 遮へい土のう
- 上部シート
- 集水管、集水タンク
- おもしなど、下部シート
- 地下水監視孔
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(基本的な構造について解説)仮置場の管理について(その1)
除染作業自体の全体的な工程については、こちらの記事で、また、除去土壌等の処理方法については、こちらの記事で解説しました。
本記事及びこちらの記事では、除去土壌等を、次の工程へと輸送されるまでの間、一時的に保管しておくための場所である仮置場について解説したいと思います。
本記事では、特に、除染事業で使用されている仮置場の構造に着目して、その主なポイントについて解説したいと思います。
仮置場の基本的な構造
こちらの記事で解説したように、オフサイトにおける環境回復の事業は、大きく、除染に関連する事業と、特定廃棄物に関連する事業とに分けることができます(特定廃棄物については、こちらの記事をご参照ください)。
仮置場は両事業について、基本的に別々に設置されており、構造なども違う部分があります。
本記事では、このうち、除染事業で使用されている仮置場について、上の図を基にその基本的な構造などについて解説したいと思います。
柵など
初めに、柵やフェンスです。
これは、仮置場の敷地内への意図的、または意図しない侵入を防ぐためのものです。
侵入の可能性があるのは人だけではなく、時にイノシシなどの動物が入ってくることもあります。
以下に解説しているような、仮置場の設備に損傷を与えないよう、あらかじめその侵入を防止するもので、下の写真のようなネットフェンスの他、木杭と番線、鋼板などで作られている場合もあります。
写真出典:除染アーカイブサイト
看板
仮置場の入口にある門扉やフェンスには、看板が設置されています。
看板には、その仮置場の名称、保管されている廃棄物の種類、緊急時の連絡先などが掲示されています。
また、こちらの記事でも解説しますが、多くの場合、この看板と合わせて、定期的に測定している空間線量率の結果などが掲示されています。
写真出典:除染アーカイブサイト
排水溝など
仮置場の敷地は舗装されていないことが多く、雨が降ると、流水による敷地の土壌浸食や、水溜りなどができることで、管理に影響が及ぶことがあります。
そこで、排水溝などが設置され、勾配などをつけることで、仮置場の敷地内に降った雨水が速やかに敷地外に排出されるようになっています。
写真出典:除染アーカイブサイトを加工
保管容器
次に、除染で発生した土や廃棄物を保管しておくための容器です。
ニュースなどでは、こうした容器の名称について、「フレコン(フレキシブルコンテナの略)バッグ」「トン袋」など、様々な表現が見られます。
また、あまり一般的ではありませんが、「(耐候性)大型土のう」という呼び方がされることもあります。
この容器の分類については、一般名称が「フレコン」で、その一部として「(耐候性)大型土のう」があるという考え方や、これらの性能を決めている団体がそれぞれあることから、「保管容器」を一般名称とし、「フレコン(フレキシブルコンテナ)」と「(耐候性)大型土のう」とを区別する考え方もあるようです。
ここでは、とりあえず、後者(一般名称として「保管容器」を使用し、その内訳として、「フレコン(フレキシブルコンテナ)」と「(耐候性)大型土のう」がある)という前提で記載します。
(参照)日本フレキシブルコンテナ工業会 及び 耐候性大型土のう協会 ウェブサイト
保管容器は、当初、上から降ってきた雨が保管容器内を通過するタイプのものもありましたが、事業の進捗とともに、1重または2重の内袋(ないたい)が付いているものに徐々に置き換えられていきました。
これにより、保管容器に雨が入らない構造になり、その結果、後述する集水管や集水タンクが不要になり、上部シートも通水性の遮光シート(マット)になり、管理もしやすくなりました。
写真出典:除染アーカイブサイト
遮へい土のう
仮置場では、何か緊急事態が発生した場合でも、上述した保管容器が搬出できるよう、クレーンのアームの長さなどを考慮して保管するブロック(山のようにも見えるので、ここでは「山」と呼ぶことにします。)の大きさが設計されています。
山の内部は、下の図のような構造になっていて、真ん中に除去土壌等を保管し、その周囲を山砂など、除染事業で発生したものではない土で遮へいしています。
これは、除去土壌等から放出される放射線が、周囲に及ぼす影響を可能な限り低減させるための措置です。
これにより、仮置場を設置した後の管理をする作業員などの被ばく線量を極力低減させることができますが、同時に、除去土壌等を搬出した後に、大量の遮へい土のうが残ることになります。
仮置場は、あくまでもその土地の地権者から一時的にお借りしている土地なので、いずれ返却する必要がありますが、この遮へい土のうの搬出先を見つけないと、その後の復旧作業のスケジュールにも影響が及ぶため、その再利用先の確保などが課題になります。
写真出典:除染アーカイブサイト
上部シート
前述した保管容器の改良に伴って、上部シートにも変化が見られるようになりました。
当初、前述したように、保管容器は入ってきた雨水をそのまま通すタイプのものでしたので、その雨を山の内部に通さないようにするため、遮水性のシートが使われていました。
枝や葉、草などの有機物を保管している場合には、発酵により発生する可能性のある可燃性ガスを山の内部に溜めないよう、遮水性かつ通気性のあるシートが使われていたこともありました。
ただ、遮水性のシート使用すると、当然、上部(天端)に水が溜まることになり、これが山に負荷をかけたり、夏場には蚊の発生原因になったりする、また、どうしても入ってきてしまう水の処理が必要になるなど、デメリットもありました。
その後、前述したように、保管容器が改良され、水を通さないタイプに変わってからは、上部シートも山の内部に水を通すタイプになりました。
これにより、水の処理量が大幅に減少し、管理もしやすくなりました。
保管容器に水が入ってこないのであれば、シートをかけなくても良いのでは、と思った方もいるかもしれませんが、これは、保管容器に日光を直接当てないようにするためです。
保管容器に長期間に渡って日光を当てると、どうしても劣化が早くなります。
これを防ぐために、引き続き遮光性のあるシートは必要になります(下の写真で「遮光シート」と書いているのは、水は通すけど、光は遮るタイプのシート、ということですね)。
写真出典:除染アーカイブサイト
集水管、集水タンク
集水管、集水タンクは、山の内部に溜まった水を集めておくための設備です。
何度か説明しているように、保管容器が水を通すタイプのものだった時には、この設備を設置し、タンクの中の水位を確認したり、水を定期的にサンプリングして、その放射能濃度を測定したりしていました。
保管容器が徐々に水を通さないタイプに変わってからは、その設備も不要になりました。
写真出典:除染アーカイブサイト
おもしなど、下部シート
除去土壌等が保管されている山の下部にはシートが敷かれており、以下の写真に示すように、シートをさらにマットで挟んで保護しています。
ちなみに、前述した、保管容器が水を通すタイプのものだった時は、山の内部の水が外部に漏れ出さないようにする役割を果たしていましたが、保管容器が水を通さないタイプに変わってからも使用されています。
これは、下の地面と保管容器が直接接触して保管容器に傷がつくことを防ぐためです。
写真出典:除染アーカイブサイト
地下水監視孔
今回紹介する最後の設備は、地下水監視孔です。
これは、どの仮置場にも、水の流れの下流部に設置されていて、万が一、除去土壌等に含まれている放射性物質が流出して、地下水に流れ込んだ際にでも、放射性物質を検知できるようにするものです。
写真出典:除染アーカイブサイト
まとめ
今回は、除染事業で使用されている仮置場の管理、特にその構造に着目して解説しました。
福島県内では、2021年度末までに、帰還困難区域を除いて、中間貯蔵施設への大規模な輸送事業は終了しました(避難指示区域については、こちらやこちらの記事もご参照ください)。
それに伴い、福島県内でも、仮置場の数も着実に減少し、元の水田や畑に復旧する事業が進んでいます。
中間貯蔵施設等については、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事をご参照ください。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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