写真出典:除染アーカイブサイト
こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
前回の記事では、除染事業において使用されている仮置場について、主にその構造に着目してご説明をしました。
今回は、その仮置場について、
・日々の仮置場の管理はどのように行っているの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (平常時や緊急時の管理方法について解説)仮置場の管理について(その2)
- 平常時
- 目視
- 空間線量率の測定
- 集水タンクの確認
- 地下水の放射能濃度
- 環境整備
- 緊急時
- 豪雨
- 豪雪
- 強風(台風など)
- 地震
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(平常時や緊急時の管理方法について解説)仮置場の管理について(その2)
前回の記事でも解説しましたが、仮置場は、次の工程に進むまでの間、一時的に除去土壌等を管理しておくための場所です。
その間は、除去土壌等を安全に管理しておく必要がありますが、今回は、平常時と、自然災害が発生した時の緊急時とに分けて、その管理方法をご説明をしたいと思います。
なお、仮置場の管理は、除染特別地域、汚染状況重点調査地域のいずれにおいても、それぞれの除染実施主体(除染特別地域:国(環境省)、汚染状況重点調査地域:主に市町村)が管理を担当しています(実際には、主にそれぞれの実施主体から委託を受けた事業者が行っています)。
なお、それぞれの地域については、こちらの記事をご参照ください。
平常時
平常時においては、少なくとも週1回は現地において仮置場の点検を行うこととされていますが、主な点検内容について、以下の5つのポイントを解説したいと思います。
目視
点検の際には、その他の点検と合わせて、仮置場を一巡して、異常の有無を確認しています。
留意すべき点は様々ですが、例えば、以下のような点に留意して点検を行います。
・フェンスに異常はないか(例:動物による侵入の形跡)
・上部シートに異常はないか(例:動物による損傷、経年劣化)
・敷地内に著しい水の浸食はないか(例:雨の降った後)
空間線量率の測定
写真出典:除染アーカイブサイト(写真は農地におけるモニタリングの様子)
仮置場には除去土壌等が保管されていますので、前回の記事で説明したように、遮へい土のうが利用されてはいますが、除去土壌等が周囲に影響を及ぼしていないか確認するために、空間線量率(周辺線量当量)が基本的に週1回測定されてます。
測定は、仮置場の敷地とその外の場所との境界で行われており、また、過去のデータとの比較をして、異常な数値の上昇などがないか確認できるよう、決まった方法(例:測定ポイント、測定の高さ、測定の向き)で行っています。
また、測定結果については、前回の記事で解説した、仮置場入口付近の看板と一緒に掲示されることなどを通じて、周囲の住民などに情報提供されています。
集水タンクの確認
写真出典:除染アーカイブサイト
集水管や集水タンクの設置については、前回の記事で説明しましたが、定期的な点検の中で、その集水タンクの水位を確認しています。
水位が高い場合には、山の中に雨水が入ってきている可能性もありますので、点検などを行い、必要な補修を行います。
また、集水タンク中の水の放射能濃度を定期的に測定しており、タンクに水が一定程度たまった場合には、基準値以下であることを確認して放流します。
地下水の放射能濃度
写真出典:除染アーカイブサイト
また、前回の記事で解説した、地下水監視孔において、基本的に月に1回、地下水を採取し、地下水に放射性物質が流入していないことを確認しています。
環境整備
また、除去した放射性物質に由来する対策ではありませんが、年に数回、仮置場において草刈りを行ったり、フェンスについた草を除去するなどして、環境の整備を行っています。
仮置場の管理上も必要な措置ですが、仮置場は農地に設置されていることが多く、周囲に農地がある場合も多いことから、その営農に影響を及ぼさないためにも、定期的な環境の整備は欠かせない措置になっています。
緊急時
ここまでは、平常時における管理の方法についてご説明してきましたが、点検・管理については、これに加えて、緊急時、特に自然災害が発生した時にも行われます。
豪雨
日本の場合、特に梅雨や台風の時期に豪雨の影響を受けることが多く、また、近年は気候変動の影響もあって、「ゲリラ豪雨」や「線状降水帯」などという言葉を聞く機会も増えたように、その一回の降水量も多くなる傾向にあります。
仮置場は屋外に設置されているため、豪雨の影響を受けることも多く、過去には、大雨の影響で仮置場に保管していた大型土のう袋が流出したこともあります。
(参考)環境省報道発表資料「台風19号による除去土壌等の仮置場等の被災状況の点検結果等について」
こうした事象が発生しないよう、台風が来る前に、河川に近接する仮置場において、大型土のう袋をロープやシート等で固定するといった対策を取ることもあります。
除染が始まった当初は、なかなか仮置場として使用する場所が見つからず、こうした河川に近接した場所に設置せざるを得なかった場合もありましたが、こうした場所から優先して除去土壌等を搬出するなどの対策も取られました。
もちろん、豪雨が発生した場合には、その事象が終わった後に、作業員の安全に十分に配慮して、点検を行い、異常の有無を確認しています。
豪雪
福島県や他の県における山間部においては、冬季に雪による影響をうける地域もあります。
雪の重みにより、除去土壌等を保管している山に負荷がかかってシートに影響が出たり、フェンスが損傷が受けるケースもあります。
雪の場合は、場所によっては長期間に渡って仮置場にアクセスできなくなることもあり、降雪期前の事前の対策が重要になります。
また、雪が溶けた後には、雨の場合と同様に、仮置場の敷地内が浸食されることもあり、注意が必要になります。
強風(台風など)
台風や突風などの強風により、仮置場が影響を受けることがあります。
特に近年は、気候変動に伴う台風の発生頻度の増加、大型化により、その影響の脅威が更に増していると言って良いかと思います。
除去土壌等が入った保管容器のような、非常に重いものが影響を受けることはまずありませんが、強風により、シートが破れたり、資機材、コンテナなどが飛ばされたりすることがあります。
特に風の影響を受けやすい場所にあるものや、重量が小さいものについては、事前にロープで固定したり、シートをかけたりして、飛散を防止する対策が取られます。
また、他の事象と同様、強風の事象が終わった後に、作業員の安全に十分に配慮して、異常の有無を確認することになります。
地震
2011年3月の東北地方太平洋沖地震の後、時間の経過とともに減少傾向にはありますが、その発生からまもなく12年になろうとする現在においても、比較的大きな地震が起こることがあります。
これまで、地震によって仮置場に大きな損傷があった事例はありませんが、震度4以上の地震が発生した際には、仮置場の設備などに異常が発生していないか、事後の確認を行っています。
まとめ
今回は、仮置場の管理について、平常時と、自然災害などが行った際の緊急時に分けて解説しました。
前回の記事で解説した、構造上の対策と、今回解説した、平常時及び緊急時の対応によって、安全な管理に努めています。
ただ、どのような対応を講じても、時にはそれを超える事象も発生しますので、その都度、工夫し、改善していくことが必要になります。
帰還困難区域を除き、2018年3月末までに面的な除染が終了し、福島県内においては、2022年3月末までに大規模な輸送が概ね完了しました。
これに伴い、仮置場の数も徐々に減少しつつありますが、帰還困難区域の除染の規模などによっては、引き続きその管理が必要になってくる可能性もあります。
また、その後の工程についてもまた別途解説をしたいと思います。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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