(IAEAの今後の活動は?)IAEAについて(その4)

放射線に関する基礎知識

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

ここまでは、こちらの記事でIAEAの設立までの経緯などについて、こちらの記事でIAEAの組織や活動内容の概要、そしてこちらの記事でより具体的な活動内容、特に、IAEA安全基準についてご説明をしてきました。

この記事では、前回の続きとして、このブログで取り扱っているような、原子力発電所の敷地外(「オフサイト」ということもあります。)における環境回復に関連するIAEAの活動のうち、会議や文書作成以外の活動について説明した後、取りまとめとして、IAEAの今後の活動の方向性について簡単に触れたいと思います。

つまり、今回は、

・会議や文書作成以外ではIAEAはどんな活動をしているの?
・IAEAは、今後どのような活動を行っていくの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. (IAEAの今後の活動は?)IAEAについて(その4)
  2. IAEAのその他の活動
    • ウラン鉱山
    • 核実験サイト、軍事関連施設
  3. IAEAの活動の方向性
    • 原子力発電を巡る世界の趨勢
    • 気候変動対策
    • 持続可能な開発目標の達成
  4. IAEAの活動への日本の貢献
  5. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

(IAEAの今後の活動は?)IAEAについて(その4)

まず、最初に、原子力発電所の敷地外における環境回復に関連するIAEAの活動のうち、会議や文書作成以外の活動について説明し、その後、IAEAの今後の活動の方向性について簡単に触れたいと思います。

IAEAのその他の活動

「放射性物質による広範囲に渡る環境汚染」と聞くと、日本では、東日本大震災での、福島第一原子力発電所の事故が思い出されるかと思いますが、他の国ではどうでしょうか。

まずは、1986年に当時のソ連(現在のウクライナ)で起きた、チョルノービリ原子力発電所の事故を例に挙げる人も多いのではないでしょうか。

福島第一原子力発電所の事故と比べると、放射性物質の放出量や、汚染の範囲ははるかに大きく、また、福島第一原子力発電所の事故と同様多くの人が避難を強いられました。

さらには、甲状腺がんなど、実際に多くの人が放射線被ばくが原因の健康被害に苦しみました。

ただ、世界には、ここまで規模は大きくなくても、放射性物質による環境汚染の事例はあります。

ウラン鉱山


世界では、毎年約5万トンほどのウランが、カザフスタン、ナミビア、カナダなどで生産されていますが(出典:世界原子力協会ウェブサイト)、世界各地にある、現在運用されているウラン鉱山や、その跡地で働く作業員や、周辺の住民の健康への影響などが報告されています。

IAEAでは、例えば、CGULS(Coordination Group for Uranium Legacy Sites)というプロジェクトを立ち上げ、特に中央アジアの国々(例:カザフスタン、キルギス、タジキスタン)にあるウラン鉱山跡地にミッションを派遣し、現地の政府職員等と意見交換を行うことなどにより、これらの場所の環境回復に貢献しています。

核実験サイト、軍事関連施設


こちらの記事でも少し触れましたが、第二次世界大戦後の冷戦の時代に、世界各地で実施された核実験によって周囲に大きな環境汚染が引き起こされ、また、東西陣営がこぞって実施した、核兵器開発に関する施設など、軍事関連施設やその周辺地域でも、放射性物質による環境汚染が報告されている事例があります。

現在ではこうした事例が発生することはほとんどありませんが、こうした事案についても、加盟国の要請に応じて、環境回復、放射線防護、放射性廃棄物の処理などに関する専門家を招聘してチームを編成し、各国の政府職員等と意見交換をしたり、必要な助言を行ったりしています。

IAEAの活動の方向性

最後に、IAEAに関する一連の記事の取りまとめとして、IAEAの活動の今後の方向性について解説したいと思います。

特に、放射線防護などとは、一見関係性が薄いようにも見える分野の社会課題の解決に向けた取組の例についてご説明したいと思います。

原子力発電を巡る世界の趨勢

日本では、2011年の福島第一原子力発電所の事故以来、一旦全ての原子力発電所が運転を停止し、新しい基準に合致した原子力発電所を順次再稼働させているため、震災前と比べると、エネルギー供給における原子力発電への依存度は低下しています。

一方、IAEAによると、世界全体で見ると、原子力発電による発電容量、発電量ともに、2022年時点から、2030年、2050年と増加していくことが予想されています(出典:Energy, electricity and nuclear power estimates for the period up to 2050, IAEA (2023))。

これは、少子高齢化、人口減少、という課題に直面している日本とは異なり、世界全体で見ると、人口が今後も増加して、2050年には98億人に到達する、という推計もあることや、人々の生活水準が向上し、一人当たりのエネルギー需要も今後益々高くなっていくことが予想されていることも理由として挙げられます。

また、原油などの化石燃料の将来的な枯渇のリスクなどを考慮し、国全体のエネルギー供給について、原子力発電が占める割合を増加させていこうとする国があることも事実です。

実際、2020年には、アラブ諸国で初となるバラカ原子力発電所がアラブ首長国連邦(UAE)で運転を開始したことも話題になりました。

気候変動対策


大気中の温室効果ガスの濃度の上昇により、気温の上昇、災害の発生頻度の増加やその規模の拡大、海面の上昇、生態系への影響、食糧生産や水資源への影響等、全世界的に様々なを引き起こしているのが気候変動問題で、その影響は年々深刻化しています。

この課題に対処するため、世界共通の長期目標として、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」 が掲げられていて、日本では、2030年には温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減、2050年に完全なカーボンニュートラルを実現することを目標に定めています。

IAEAは、この気候変動問題の改善、解決に向けて、化石燃料を使った発電の代替手段の一つとして、原子力発電の安全な導入を推進する役割も担っています。

IAEAによる、気候変動問題への取組については、こちらのウェブサイトをご覧ください。

持続可能な開発目標の達成


また、2015年9月に、「国連持続可能な開発サミット」で採択された、2030年に向けて、持続可能な世界を実現するために解決すべき、17の持続可能な開発目標の達成に向けても、原子力発電を含めた、原子力技術の活用により、食糧や医療、水資源、生態系の保全などの分野において、IAEAはより積極的な貢献を求められています。

IAEAによる、持続可能な開発目標の達成に向けた貢献については、こちらのウェブサイトをご覧ください。

(参考)持続可能な開発目標(黄色にハイライトしているのが、IAEAが特に注力している目標)
1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
9.産業と技術革新の基盤をつくろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任 つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう

IAEAの活動への日本の貢献


技術の進展などもあり、一概には言えませんが、今後、原子力発電所の数が世界で増加していけば、発電所の事故などにより、周囲の環境が汚染されるような事象が発生する確率も上がっていくでしょうし、また、今なお、世界各地で大規模な紛争が続いており、場所によっては、原子力発電所がその影響を受けるリスクを考慮する必要があります。

こうした点については、第二次世界大戦で原子爆弾による被ばくや、東日本大震災を経験した日本は、世界に貢献できる面も多いかと思います。

具体的には、こうした戦争や事故そのもの、また、それに伴う大規模な環境汚染が世界の他の場所で二度と起こらないよう、また、万が一起こってしまった場合でも、その影響を最小限に抑えられような対処方法について、直接、またはIAEAを通じて、日本の取組を世界に発信し続けていく必要があるかと思います。

まとめ

ここまで、4回に渡って、IAEAについて解説してきました。

福島第一原子力発電所の廃炉作業に伴って発生したALPS処理水の海洋放出に関する報道等を通じて、IAEAは広く日本でも知られるようになったかと思いますが、その活動は多岐に渡ります。

少しでも多くの人に、IAEAの活動について知ってもらえる機会になれば幸いです。

ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。

日本語版

英語版

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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