こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
こちらの記事では、主に、IAEA設立までの経緯について、こちらの記事では、主に、IAEAの組織の概要や活動内容について簡単に解説してきましたが、本記事では、IAEAの活動内容について、もう少し詳細に触れたいと思います。
ただ、IAEAの活動はかなり多岐に渡っており、全てについてカバーすることはできないため、特にこのブログで取り扱っているような、原子力発電所の事故後の環境回復などに深く関連する活動に焦点を当てたいと思います。
本記事では、その中でも、「IAEA安全基準」という文書やその作成方法、加盟国における活用方法について解説したいと思います。
つまり、今回は、
・IAEA安全基準って何?
・IAEA安全基準ってどうやって作られるの?
・IAEA安全基準ってどのように使われているの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (IAEA安全基準とは?)IAEAについて(その3)
- IAEA安全基準とは
- 安全原則
- 安全要件
- 安全指針
- IAEA安全基準はどのように作成されるのか
- IAEA安全基準はどのように活用されているのか
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(IAEA安全基準とは?)IAEAについて(その3)
最初に、IAEA安全基準について簡単に触れた後、それを構成する3種類の文書についてより詳細にご説明したいと思います。
IAEA安全基準とは
IAEA安全基準とは、こちらの記事で解説した、IAEA憲章に基づき作成されるもので、電離放射線による危険な影響から、人や環境を守ることを目的として作成される、一連の文書のことです。
具体的には、「安全原則」、「安全要件」、「安全指針」という3つの文書から構成されていますので、それぞれについて、以下の章で解説していきたいと思います。
安全原則
安全原則は、放射線による、人や環境への防護に関して、最も基本的な考え方が書かれた文書で、安全の目的、概念、原則が示されています。
安全原則には、以下に示した10の原則が示されており、次に解説する安全要件の基礎となるものです。
原則1:安全に対する責任
原則2:政府の役割
原則3:安全に対するリーダーシップとマネジメント
原則4:施設と活動の正当化
原則5:防護の最適化
原則6:個人のリスクの制限
原則7:現在及び将来の世代の防護
原則8:事故の防止
原則9:緊急時の準備と対応
原則10:現存又は規制されていない放射線リスクの低減のための防護対策
安全要件
安全要件は、上述した、安全原則に基づき、安全を確保するために満たすべき要件を示した文書で、基本的に、「〜しなければならない」という言葉の中でも強い意味を持つ、’Shall’という助動詞が各所に用いられています。
上述した安全原則とは異なり、現時点では、現時点では、7つの一般的な安全要件と、6つの個別の安全要件により構成されており、放射線防護に関しては、一般安全要件の第3巻:「放射線防護と放射線源の安全:国際基本安全基準」(2014)に主な事項が記載されています。
安全指針
安全指針は、上述した、安全要件を満たすための措置、条件、手続を示した文書で、基本的に、「〜するべきである」という意味を持つ、「Should」という助動詞が各所に用いられています。
上述した安全要件と同様に、一般的な安全指針と、個別の安全指針により構成されていますが、その数は、適宜、新設や改編を繰り返しているため、常に変化していますが、一般的な安全指針が約25、個別の安全指針が約100、と、安全要件と比べると非常に多くなっています。
このブログで取り上げているような、放射線防護や環境回復に関する安全指針も多くありますが、例えば、除染に関しては、一般安全指針15:「過去の活動と事故により影響を受けた地域の修復プロセス」(2022)などが関連します。
IAEA安全基準はどのように作成されるのか
このように、安全原則、安全要件、安全指針、と3層の構造になっている安全基準ですが、実際には、どのようなプロセスを経て作成されているのでしょうか。
IAEA安全基準の検討・作成を行うために、理事国からなる理事会、事務局長の下に、加盟国の代表で構成される安全基準委員会、があり、さらにその下に、専門分野ごとに、更に詳細な事項を検討する、以下の5つの委員会が設置されています。
・原子力安全基準委員会
・廃棄物安全基準委員会
・放射線安全基準委員会
・輸送安全基準委員会
・緊急事態への準備と対応基準委員会
そして、各基準委員会において、少人数の専門家を集めた会議を行ったり、加盟国を集めた大規模な会議を行ったりして、加盟国などの意見を集約して、文書を作成していきます。
コロナ禍の影響で、最近はオンライン会議が発達し、活用する機会も増えましたが、IAEA安全基準の策定には決められた14のステップを踏む必要があり、少なくとも数年をかけて一つの文書を作成していきます。
IAEA安全基準はどのように活用されているのか
以前にこちらの記事でも解説しましたが、IAEAもUNSCEARや、ICRPが出す勧告などを踏まえながら、こうした安全基準を策定していますが、条約に基づく取り決めなどとは異なり、この安全基準自体には、各国に対する法的拘束力や強制力はありません。
ただし、IAEAの長い歴史や実績も踏まえ、また、加盟国などから、様々な意見を取り入れながら策定されているため、実際には、各国の法令、制度設計にも、大きな影響を及ぼしています。
まとめ
今回は、前回の続きとして、IAEAのより詳細な活動内容、特に、このブログで扱っているような、放射性物質による汚染への対応に関する取組の例として、IAEA安全基準についてご説明しました。
次回は、この分野におけるその他の活動内容や、今後のIAEAの活動の方向性などについてお話ししたいと思います。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
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今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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