除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その1)

除染、特定廃棄物の処理

こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。

現在、国が進めている、除染で発生した土の減容や再生利用について、こちらの記事で、国際原子力機関(IAEA)がそのレビューを進めている旨を簡単に説明しました。

2024年9月10日、IAEAは専門家会合で議論されてきた内容について、その最終報告書を伊藤環境大臣(当時)に手交し、ウェブサイトにその報告書の内容を公表しました。

また、環境省のこちらのウェブサイトにおいても、最終報告書やその概要などを知ることができます。

これから数回に渡り、その報告書に書かれた内容について、私なりの解釈を解説していきたいと思います。

まずは、その専門家会合の実施の背景などについて説明してみたいと思います。

つまり、今回は、

・ 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合って何?
・ 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合ってどうして開催されたの?

こういった疑問に答えます。

○本記事の内容

  1. 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その1)
  2. IAEA専門家会合とは
  3. IAEA専門家会合が開催された背景
  4. IAEA専門家会合が対象とする範囲
  5. IAEA専門家会合開催実績
    • 第1回専門家会合
    • 第2回専門家会合
    • 第3回専門家会合
  6. IAEA専門家会合メンバー
  7. まとめ

この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。

その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。

こういった私が、解説していきます。

除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合最終報告書について(その1)

まずは、このIAEA専門家会合とは一体何なのかを分かっていただくために、最終報告書も参考にしながら、同会合が開催された背景や会合が対象とする範囲、開催実績について、順番に説明していきましょう。

IAEA専門家会合とは


この場合のIAEA専門家会合とは、簡単に言うと、日本(主に国、特に環境省)が福島第一原子力発電所の事故後に進めてきた、除去土壌等の減容や再生利用に関する政策に対して、IAEA及びIAEAが選択した専門家(以下、最終報告書の表現に合わせて「専門家チーム」とします。)から助言や評価を受けるものです。

専門家チームからの助言や評価には、拘束力はありませんが、国際的かつ客観的な立場に基づいて提供されるものなので、受け取った側(この場合主に環境省)も、その内容に対し、真摯に対応することが求められます。

IAEA専門家会合が開催された背景

さらなる事前の準備はあったかと思いますが、最終報告書によると、2022年10月に環境省からIAEAに専門家会合の実施に関する要請があったとのことです。

除染に関するIAEAのレビューという観点では、2011年にオフサイトの環境回復に関するミッションが行われ(報告書はこちらのIAEAのウェブサイト参照)、2013年にそのフォローアップミッション(報告書はこちらのIAEAのウェブサイト参照)が行われています。

さらには、環境省とIAEAとの間では専門家会合が2016〜2017年にかけて4回に渡り実施されました(報告書はこちらのIAEAのウェブサイト参照)。

これらは、いずれも、オフサイトにおける除染事業を主な対象としたものでした。

これに対し、今回のIAEA専門家会合は、環境回復事業全体の進捗も踏まえ、除去土壌等の減容や再生利用に焦点を当てて議論が行われたものになっています。

この除去土壌等の減容や再生利用の取組は、こちらの記事でも解説したように、基本的に中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(技術開発戦略)に沿って進められていますが、この戦略の成果の取りまとめが2025年3月までに行われることが予定されており、その取りまとめも見据え、このタイミングでIAEAの評価・助言を依頼したものと考えられます。

IAEA専門家会合が対象とする範囲


最終報告書によると、会合では、除去土壌の減容や再生利用に関する現状や技術開発戦略の進捗状況とともに、以下のような点について議論することになっています。

・技術的観点(例:安全、方法論、再生利用基準、品質管理、構造物の維持管理、モニタリング)
・社会的観点(例:国民とのコミュニケーション、理解醸成)

放射線学上の安全という、技術的観点だけではなく、この事業に対する人々の理解、安心といった社会的観点についても、同程度に重きを置いて議論されたのは意義深いことだったのではないかと思います。

また、こちらの記事でも解説した、中間貯蔵施設や長泥地区の実証事業現場への現地調査や、関連する町村長や住民の方々との意見交換の場も含まれています。

IAEAの職員は普段は会議場で各国政府の職員や専門家と議論することが多いのですが、今回は、実際の現場を見つつ、事業に関わっている行政や住民との意見交換の機会も持ったことは、専門家チームにとっても良い機会になったのではないでしょうか。

IAEA専門家会合開催実績


専門家会合は、2023年度中に計3回実施されています。

実際の会合前にも、専門家チームの理解を事前に深めるため、環境省が事前に資料をIAEAに提供したようですが、以下では、それぞれの会合について、簡単にその議題等を説明したいと思います。

第1回専門家会合

第1回専門家会合は2023年5月8日〜12日に日本で行われました。

その議論の内容をとりまとめたサマリーレポートは2023年9月1日に公表されています(IAEAのウェブサイトでも確認できますが、全訳も含め、こちらのウェブサイトで見ることができます)。

このサマリーレポートを見ると、第1回専門家会合期間中は、東京(霞ヶ関)では、

・福島の環境再生に関する現状
・ステークホルダーの関与やコミュニケーション
・再生利用に関して、8,000Bq/kgという基準の導出方法
・減容と再生利用に関する戦略

などについて議論されたようです。

また、福島において、以下の場所等を訪問する機会が設けられたようです。

・福島地方環境事務所
・飯舘村役場
・飯舘村長泥地区環境再生事業実施現場
・長泥地区住民との意見交換
・双葉町役場
・大熊町役場
・中間貯蔵施設
・東日本大震災・原子力災害伝承館
(順番は訪問順)

第1回専門家会合では、再生利用事業の安全性などに関する議論も行われましたが、同時に、かなりの時間を、福島において、事業が行われている現場の確認や、地元で除去土壌の再生利用に関する事業等に関わっている人たちとの意見交換等の機会に割いたようです。

この時のことは最終報告書の各所にも言及されており、特に専門家チームにとって非常に有意義な機会になったのではないかと思います。

第2回専門家会合

第2回専門家会合は2023年10月23日〜27日にオーストリアで行われました。

ただ、対面での参加に加えて、日本からも環境省職員がオンラインで参加したようです。

その議論の内容をとりまとめたサマリーレポートは2024年1月12日に公表されています(IAEAのウェブサイトでも確認できますが、全訳も含め、こちらのウェブサイトで見ることができます)。

こちらの記事でも解説したように、オーストリアの首都であるウィーンにはIAEAの本部があり、主にその会議室で行われたようです。

主な議題としては以下のようなものが挙げられます。

・第1回会合からの進捗
・規制的側面(再生利用に関する制度)
・クリアランスに関する測定
・コミュニケーションとステークホルダーの関与
・最終処分

また、会合期間中、ウィーン近郊にあるサイバースドルフという街にも現地調査に行って、低レベルの放射性物質を含む土壌を分別している施設の現地調査が行われました。

私が知る限りは、こうした専門家会合やミッションは、その実施を要請した加盟国で行うことが通例で、IAEAの本部があるウィーンで行うのはあまり聞いたことがありませんが、第1回では福島で現地調査が行われたことも考えると、今度は日本以外の国における事例を見る機会が設けられた、ということかもしれません。

第3回専門家会合

第3回専門家会合は2024年2月5日〜9日に日本で行われました。

第3回専門家会合自体のサマリーレポートは策定されず、第1〜3回の内容を取りまとめた最終報告書が公表されています。

その報告書は、冒頭にも触れたように、IAEAのこちらのウェブサイトや、環境省のこちらのウェブサイトにおいて、その概要などともに見ることができます。

第3回会合は最終報告書の取りまとめに向けた最後の会合となり、現地調査などはなかったようですが、以下のような内容について議論が行われました。

・第2回会合からの進捗
・再生利用
・最終処分及び技術開発
・ステークホルダーの関与
・福島の復興に関わるステークホルダーとのセッション
・IAEA安全基準との整合性

ほぼ、最終報告書の構成に近い形でアジェンダが組まれていますので、議論の方向性が少しずつ定まっている様子が伺えます。

IAEA専門家会合メンバー


環境省のこちらのウェブサイトに掲載された資料によると、第3回会合時の専門家チームのメンバーは以下のとおりです。

<IAEA職員>
○Ms. Anna Clark :原子力安全・セキュリティ局 廃棄物・環境安全課長
○Mr. Gerard Bruno :原子力安全・セキュリティ局 放射性廃棄物・使用済核燃料管理ユニット長
○Mr. Vladan Ljubenov :原子力安全・セキュリティ局 廃止・修復ユニット長
○Ms. Chantal Mommaert:原子力安全・セキュリティ局 廃止・修復ユニット 環境回復専門官
○Ms. Mathilde Prevost:原子力安全・セキュリティ局 放射性廃棄物・使用済燃料管理ユニット調整官

<国際専門家>
○Mr. Jon Richards:環境保護庁 地域放射線専門官、除染プロジェクトマネージャー(米国)
○Mr. Ray Kemp :放射性廃棄物管理に関する英国委員会(CoRWM)委員、環境中の放射線の医学的側面に関する英国委員会(COMARE)委員(英国)
○Ms. Shelly Mobbs:エデン原子力・環境有限会社 放射線防護・環境保護主任専門官(英国)
○Mr. Jörg Feinhal:元DMT GmbH & Co. KG, 放射線防護・放射性廃棄物管理 主席技術者(ドイツ)
○井上 正 氏 :一般財団法人電力中央研究所 名誉アドバイザー(日本)

IAEAは、IAEA安全基準の策定等を担当している原子力安全・セキュリティ局廃棄物・環境安全課の職員(IAEAの組織構成についてはこちらの記事も参照ください。)が担当しています。

国際専門家のメンバーは、IAEAが選択するのですが、(途中で多少のメンバーの入れ替えはあったようですが、)放射性廃棄物の管理などに実績のある米国や欧州各国の専門家が参加して、環境省の取組に対する助言等を行っていました。

まとめ

今回は、IAEA専門家会合の開催された背景、その議論が行われた範囲、開催実績、専門家チームのメンバーについて解説しました。

次回以降、報告書の内容についてより詳細に説明していきたいと思います。

本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。

今回は以上となります。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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