こんにちは。放射線などについて分かりやすく解説している大地(だいち)です。
除染で発生した土の減容化や再生利用について、まず、こちらの記事で、その現状や、取組が進められている背景について解説し、そして、こちらの記事で、特に技術的観点から、その具体的な進め方や、方法について解説しました。
具体的には、技術的観点からの取組として、減容化や再生利用を進めていく上で基盤となる技術開発や、現在進められている実証事業についてご説明しました。
今回は、特に、社会的観点、つまり、この取組に関する理解醸成などについてご説明した後、この取組の今後の進め方にについて解説したいと思います。
つまり、今回は、
・ 除染で発生した土の減容化や再生利用に関する理解醸成って、具体的にどのように進められているの?
・ 除染で発生した土の減容化や再生利用って、これからどのように進められているの?
こういった疑問に答えます。
○本記事の内容
- (理解醸成や今後の進め方について解説)除染で発生した土の減容化や再生利用について(その3)
- 除染で発生した土の減容化や再生利用に関する理解醸成
- 現地見学会
- シンポジウムの開催やインターネットを通じた広報
- 除染で発生した土を使った鉢植えの設置
- 除染で発生した土の減容化や再生利用の今後の進め方
- 制度的な準備
- IAEAによるレビュー
- 最後に
- まとめ
この記事を書いている私は、2011年の福島第一原子力発電所の事故の後、除染や中間貯蔵施設の管理など、継続して放射線の分野での業務に従事してきました。
その間、働きながら大学院に通い(いわゆる社会人ドクター)、放射線の分野で博士号を取得しました。
こういった私が、解説していきます。
(理解醸成や今後の進め方について解説)除染で発生した土の減容化や再生利用について(その3)
こちらの記事とこちらの記事で、それぞれ、除染で発生した土の減容化や再生利用が進められている背景と、特に技術的な観点からの、具体的な進め方についてご説明しました。
今回は、まず、社会的観点、具体的にはこの事業に対する全国的な理解醸成について解説した後、一連の記事の取りまとめとして、今後の進め方について解説していきたいと思います。
除染で発生した土の減容化や再生利用に関する理解醸成
この取組は、福島第一原子力発電所の事故後に環境中に放出された放射性物質を取り扱う事業であり、また、その対象が福島県のみならず、全国に渡るため、様々な人達の理解が必要になリます。
以下に、こうした全国的な理解を促進するための取組について、その代表的な例をご紹介したいと思います。
現地見学会
こちらの記事などでご紹介した、福島県内の除染で発生した土や廃棄物を保管している中間貯蔵施設での現地見学会は、希望に応じて日々に行われていて、バスに乗って、土壌貯蔵施設や、道路盛土に関する実証事業、区域内に残っている震災遺構を見学することができます。
また、こちらの記事でご紹介した、福島県飯舘村の長泥地区、という場所でも、希望に応じて現地の見学会が実施されていて、農地の造成に関する実証事業の様子などを見ることができます。
詳細については、JESCOのウェブサイトをご覧ください。
シンポジウムの開催やインターネットを通じた広報
例えば、全国各地で、除染で発生した土壌の再生利用の必要性や安全性などに関する理解を広げる場として、2021年〜2023年にかけて合計9回に渡って、対話フォーラムが開催されています(詳細についてはこちらのウェブサイトをご覧ください。)。
また、2023年度には、約50の高校や大学で、除染で発生した土の再生利用などに関する講義を行ったりしています。
もちろん、インターネットを使った広報に加えて、影響力のある、インフルエンサーによる、YouTubeなどでの情報発信も行っています。
詳細についてはこちらのウェブサイトをご覧ください。
除染で発生した土を使った鉢植えの設置
福島の復興に向けた理解醸成の取組の一つとして、2020年から、福島県内の除染で発生した土壌を用いた鉢植えを、国の関連施設(関連省庁の庁舎)や政党の本部に設置しています。
設置された鉢植えの周辺の空間線量率のモニタリングも継続して行われていますが、鉢植えの設置前後の空間線量率に変化は見られていません。
詳細については、こちらのウェブサイトをご覧ください。
除染で発生した土の減容化や再生利用の今後の進め方
最後に、一連の記事の取りまとめとして、これらの取組の今後の進め方などについてお話したいと思います。
制度的な準備
国は、除染で発生した土などの減容や再生利用を、中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略に沿って進めていますが、この成果を2024年度末までに取りまとめることとしています。
この中には、減容や再生利用に関する基本的な技術開発や実証事業の完了、技術的な基準やガイドラインの策定などが含まれており、その内容については、再生利用、技術開発や最終処分、コミュニケーションなどの各分野ごとに専門家を集めた委員会において具体的に議論が続けられていて、2025年度からは、より本格的な事業の実施に移る予定になっています。
詳細については、こちらのウェブサイトをご覧ください。
IAEAによるレビュー
また、並行して、国が行っているこうした減容や再生利用に関する取組に対する、IAEA(国際原子力機関)によるレビューも実施されています。
これまで、3回の専門家会合が行われており、最終的な報告書が2024年の夏頃に取りまとめられる予定になっていて、その助言などは、前述した、2025年3月までに準備される制度の内容などに反映される予定です。
詳細については、こちらのウェブサイトをご覧ください。
IAEAについては、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事、こちらの記事もご参照ください。
最後に
ここまでご説明してきたように、2025年3月、というのが、それ以降の本格的な事業実施に向けた重要な目標年月になっています。
その2025年3月というのは、福島県外での最終処分完了まで20年という節目でもあります。
残された20年という歳月は、決して十分に余裕があるとは言えず、2045年3月までに、再生利用を進めながら最終処分を完了させるためには、それに適した場所の選定や、そこまでの輸送にも多くの技術的課題の解決、調整が必要になりますし、全国的な理解を得るのにも、相当な時間がかかるものと考えられます。
実際、国は、福島県以外の、東京や埼玉で、再生利用の実証事業を実施しようと、地元で説明会を行ったりしましたが、なかなか理解を得られず、現時点では、福島県以外の場所では、まだ実証事業を行うことができていません。
まとめ
除染で発生した土の減容化や再生利用について、その背景や、具体的な取組内容、今後の計画などについてご説明してきました。
この問題の解決は被災地の復興には欠かせないことですし、首都圏に電気を送っていた原子力発電所の事故、ということもあるので、福島だけではなく、日本全体で考え、解決していく必要がある課題だと思います。
まずは、中間貯蔵施設や、再生利用に関する実証事業現場の見学会への参加などを通じて、継続的に関心を持っていただければと思います。
ちなみに、以上とほぼ同じ内容を動画にもまとめてみましたので、よろしければご覧ください。
日本語版
英語版
本記事の英語版はこちらからご覧いただけます。
今回は以上となります。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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